量的緩和解除について(追記)

ということで再度追記です。


既にラスカルさんの備忘録 がありますので、新たな政策枠組みについて一々纏める必要はないのですが、また今後の見通しについては田中先生のエントリ がありますので一々纏める必要はないのですが・・。と言い訳をしたい気持ちをグッとこらえて。


今回の量的緩和解除についてですが、私は先のエントリにもあるとおり、「現時点での量的緩和には反対」の立場です。今回の量的緩和解除の経緯は日銀が市場に対して「3月解除かもしれない」という地均しをあえてした上で解除に踏み切った訳で「市場の動向を見つつ、適正な対話を経た」という形での解除ではないと考えます。



1.政策手段の効果

日銀の立場に立って考えると金利を政策手段として用いる為には(将来的には)政策手段として十分な金利水準を確保する必要があります。裁量政策を旨とする場合には特に政策効果として十分なインパクトを得るだけの手段が必要です。これはデフレ下で政策金利の低下余地が少ないという状態に陥り、結果として十分な金融政策の効果を生み出せなかったという過去の経験からも想像がつくと思います。十分な金利水準を確保するためには、経済動向を見ながら解除のタイミングを出来るだけ遅らせる視点が必要であり、出来るだけ景気が上昇した元で、そして名実ともに「デフレから脱却した」という期待が醸成された上で緩和解除を行えばその分だけ(景気がマイナスとはならない形での)金利許容水準が上がるのではないかと思います。


ただ、今回、上方バイアス等を考慮すると安定的にゼロ%をクリアしない消費者物価、さらにGDPデフレータの動向を考慮しても安定的にプラスと言い切ることの難しい微妙な領域で日銀は量的緩和解除に踏み切った訳です。このことは十分な景気上昇を見込まずに解除に踏み切った形になり、結果として操作可能な金利水準を抑えることで日銀は自ら手足を縛る格好になってしまったのではないかと思います。福井総裁はゼロ%を超えているから解除したと発言していますが、一方でバイアスの存在も自明な訳ですからなぜ十分な物価上昇率が達成された上での解除を決断しなかったのでしょうか。


今後は、「数ヶ月の期間を経て」との言及がなされている訳ですのでいずれ当座預金残高の削減が進められていき、出口に向かって進んでいく事になるかと思います。結局今回の量的緩和解除では「将来短期金利がいつか上がる」という期待が形成されたという事になると思われます。これはいずれ長期金利の上昇に繋がっていくものと思いますが、政府が目標としている名目成長率の達成と長期金利の関係をどう見極めて自ら狭めた短期金利という政策手段の元で金融政策を行っていくのか、ある意味でグリーンスパン以上の手腕が望まれる局面に達したのではないでしょうか。


2.物価参照値について

 今回、消費者物価指数の前年比でゼロから2%の範囲内で「中長期的な物価安定の状態にある」と日銀は判断し、日銀は政策運営を行っていくという訳です。日銀はインフレターゲットの設定ではないと言いたいのでしょうか。識者の中ではこの物価参照値を実質的なインフレターゲットと認識するという論調の方も居ます。結局今回の物価参照値の設定は「参照値が明示されるが、そのことによる日銀の政策意図が明確に市場に伝わらない」という最悪の状態に陥ったのではないでしょうか。物価参照値を明示するのであれば、また1.のような早期の緩和解除に踏み切ったのであれば尚更、明確なコミットメント(拘束)を踏まえた形でなければ十分な政策効果をもたらす事は出来ないと思います。


尚、財政への影響を考えると、名目GDP成長率=実質GDP成長率+物価上昇率ですので、物価上昇率が2%の上限を超えた場合に即座に短期金利を上昇させるという形での政策を行うということはドーマー条件の成立がより困難になっていくこと(名目GDP成長率<名目金利)を示唆しています。明確な拘束条件を踏まえた上での物価参照値の提示、さらに物価安定と認識する消費者物価指数の前年比の上方修正が必要だと思います。


ご参考:量的緩和策について

http://ameblo.jp/econ-econome/entry-10003576831.html