野口旭氏「ポスト量的緩和の金融政策運営」

専大野口先生の論説です。以前(2006年1月19日)のMM論説から量的緩和解除がなされたことをうけてどうなるかを論じられています。論説には全くもって賛成ですが、問題はいかなるタイミングで本格的な導入への道を辿るのかという点でしょうか。「失われた10年」における政策の失敗を認めることからまず始めるべきでしょうが。

1.量的緩和解除は何をもたらすのか

  • デフレ脱却こそが日本経済にとって最優先の経済目標であり、デフレ脱却は金融政策の正常化(ゼ金利解除)の前提条件である。歳出削減・増税を通じた財政再建の前提は金融政策の正常化が前提条件である。
  • 2006年春に解除される可能性は低いという認識は見通しが甘かった。福井総裁は量的緩和を粘り強く継続するという言葉の裏で虎視眈々と解除の機会を待っていたのだろう。今回の量的緩和解除には賛成出来ないが、結果として今後の日本経済には望ましい方向に(解除は)作用すると考えられる。

2.錯綜する二つの解釈

  • 今回の日銀の措置(CPI0−2%という参照値:物価安定の「理解」)については二つの解釈が錯綜、拮抗している。
  • 一つはそれを伝統的なインフレ・ファイター型中央銀行への回帰と考える見方である。もう一つの見方は「短期市場金利を操作目標としたインフレ・ターゲティング」への第一歩と捉える見方である。日銀福井総裁の意図は第一の見方であろうが、変動相場制下の中央銀行が取りうる選択肢は「短期市場金利を政策目標としたインフレ・ターゲティング」しかあり得ず、日銀の思惑がどうであれ0%〜2%という数値を入れてしまった事でインフレ・ターゲティングの側面を有する形にならざるをえないだろう。

3.インフレ・ターゲティングはなぜ重要か

  • 伝統的理念に基づく金融政策運営の最大の問題点は、中央銀行が達成すべき「物価の安定」についての基準がきわめて曖昧であるために、日銀が行う政策の適切さや不適切さを明示的に指摘することが難しくなるという点にある。
  • インフレ・ターゲティングは消費者物価上昇率という明確な基準の達成を目標としており、政策当局の責任逃れはほぼ不可能となる。政策の責任をなるべく曖昧にしておきたいと考える官僚組織としての日銀が、インフレ・ターゲティングの導入を忌避し続けてきたのは、その意味ではまったく当然だったのである。日銀がいくら否定しても伝統的インフレ・ファイター型中央銀行には回帰できない。

 
4.これからの金融政策

  • 日本経済の景況を考慮すれば、CPI上昇率が着実に1%を超えるような段階に到達するにはまだ相当な時間がかかるだろう。現在はデフレに逆戻りする可能性さえ考慮する段階である。日銀はおそらく日銀はおそらくゼロ金利解除という金融政策正常化のプロセスを「きわめて慎重に」行うことになるだろうと予想している。そのような政策変更に対する慎重さは、デフレ・リスクを完全に克服したとはいえない現段階の日本経済においては、基本的にはまったく望ましいことである。
  • 日銀が提示した「物価安定の『理解』」は多くの国々が導入しているインフレ・ターゲティングからすれば、日銀自身に達成責任を持たせていないこと、CPI0%〜2%という低水準値であること、からすれば問題である。但し世界の中央銀行の動向を考慮すれば、インフレ・ターゲティングへの道は避けられないだろう。

追記(5/18)出典をきちんと明記しておりませんでした。上記野口先生の論説はMM日本国の研究で出されたものです。詳細はこちらからどうぞ。http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html