日銀レビュー:「近年の製造業の設備投資増加について」を読む。

今般のわが国の経済拡張期に際しては、民間企業の設備投資の増加、特に製造業の旺盛な設備投資の拡大が経済の拡大に寄与しているとの指摘がなされている。日銀レビューでは、これらの点について解説しているが、概要と感想を纏めてみたい。

1.製造業の設備投資積極化の背景
 レビューでは、製造業の設備投資の積極化の背景(理由)として、?90年代以降の長期にわたる投資抑制の結果、生産設備の不足感が高まりやすい環境にあったこと、??の元でグローバル需要の拡大を見込みつつ、供給体制を整える動きがあること、?IT関連資本財のウエイト増加を背景とした投資サイクルの短期化、を挙げている。
 ?の生産設備の不足感の理由としては、2000年前後から製造業の資本ストックは頭打ちとなり、鉱工業生産指数も97年以降減少傾向となったが、2002年以降、製造業の直面する需要が回復し、生産能力指数以上の鉱工業生産がなされていることが挙げられている。結果、稼働率や企業の設備判断も上向いているという訳だ。
 ?については、今般の景気拡大局面の中で純輸出の占める割合が向上しているという点である。この点については過去のエントリでも見たとおりだが、実質GDP成長率が年率2.4%程度であるのに対して、純輸出の寄与度は0.6%、寄与率でみると26%である。バブル期の景気拡大局面では、平均実質GDP成長率が5.4%であるのに対して純輸出の寄与度が−0.2%であったことから考えると対照的である。今般の純輸出の実質GDP成長率への寄与度の高まりの背景として、レビューでは製造業の投資行動が短期の需要増加のみならず海外市場の発展を踏まえた長期的な視点に基づくものとして論じている。
 ?については、資本ストックに占めるIT関連投資のウエイトが高まったこと、国内の高付加価値化、技術革新の進展が理由とされている。設備投資が増大しているにも係わらず資本ストックがそれほど伸びないという事実は減耗額が増加していることが理由という整理である。

2.資本ストック循環からみた製造業の設備投資
 レビューでは、設備投資・資本ストック比率と設備投資前年比の関係をプロットすることで資本ストック循環図を作成している。これは期待成長率の変化に伴って設備投資の前年比がどのように変化するのかをみるとが可能となる。景気拡大局面では、設備投資・資本ストックの高まりと設備投資前年比の高まりが観測され、それは期待成長率の高まりを背景としているというわけだ。2005年末時点までの資本ストック循環が作図されているが、2002年以降の投資の動きはわが国経済が景気拡大局面に入っていることを示唆している。
 ただし、この設備投資の循環は、期待成長率が1%〜2%のラインを前提にしていることや投資水準がキャッシュフローの枠内に留まっていることを考慮すれば楽観的な見通しにたっての投資拡大ではなく、むしろ正常な水準への回帰ではないかとレビューでは議論している。構造VARに基づいて設備投資・資本ストック比率の動きを恒久的変動分と一時的変動部分とに分けた分析が行われているが、近年の設備投資・資本ストック比率の上昇は恒久的要因自体が緩やかに上昇しているとともに、一時的要因が回復していることが理由であることがわかる。

3.感想
 以上、日銀レビューで議論されている近年の製造業の投資拡大について簡単に纏めたわけだが、レビューでも指摘するように、わが国経済が海外への依存度をより高めているのだとすれば、リスク要因としての海外経済動向をより注視していく必要があるだろう。設備投資の拡大が一時的要因によるものか、構造的な要因によるものかについては、レビューでは構造的要因の影響が持続していくことから、設備投資は今後も向上していくという議論だが、この点は海外経済動向が今後どうなるかという視点も含めてよりつっこんだ議論が必要だと感じた。また分量に制約があるためだと思うが、製造業といっても大企業と中小企業では設備投資行動は異なると考えられ、規模別の視点でみると違った姿が浮かぶのでは、とも感じた。最後に個人的には経済成長の天井概念としてみた場合の潜在成長率の中で以上の投資の見込みがどの程度の寄与をもたらすのか、今後わが国の成長の余地がどの程度あるのか、といったところを見てみるのも面白いと感じた。