「経済(国内)]消費者物価指数と季節調整済指数

 月次系列や四半期系列には、季節変化に伴う要因が含まれている。そのため、時系列データの趨勢を把握するには季節要因を除去する必要がある。この季節要因を除去した系列*1が季節調整済系列というわけだ。
季節調整済指数を利用することは、月次及び四半期データの趨勢・循環変動を把握するには有用であるといえるが、それは何をみるのかに依存する。消費者物価指数の場合、月次の物価変化を見るには通常は対前年同月比が参照され、季節調整済指数が参照されることは少ないのは何らかの「理由」があるのではないか。以下、その「理由」について簡単に纏めることにしたい*2

1.消費者物価指数の季節調整方法
 消費者物価統計がどのような形で季節調整を行って季節調整済指数を作成しているかは、解説資料を読むことで把握できる。消費者物価指数については総務省が「平成17年基準 消費者物価指数の解説」*3を公表しているので参考になるだろう。
 「消費者物価指数の解説」の第7に季節調整の内容が記載されているが、推計方法のポイントが簡潔に記載されているので以下、引用してみることにしよう。

・推計方法:X-12-ARIMAに含まれるX-11パートに基づいて推計
・特異項=不規則変動把握のための管理限界は2.0σから3.0σと設定
・季節調整済指数作成のために用いる原系列は平成12年1月以降の指数であり、平成17年基準として接続した値である。
・直近年の季節調整済系列は平成12年1月から前年12月までの原系列を用いて求められる季節変動の予想値(推定季節指数)で直近年の各月の原系列を除して推計。(※)
・直近年の12月までのデータが公表された時点で、直近年のデータを含めて再び季節変動を計測しなおし、その値を元に季節調整を行うことで改定された季節調整済系列が推計される。(※)


 以上の季節調整済指数の作成方法の中でポイントとなるのが、※印の点である。つまり消費者物価統計における直近年の季節調整済指数(月次)は毎年末の値が公表された段階で過去の系列を含めて改訂されるという事実である。物価が大きく変化していない現状においては、直近年の12月値が公表された段階で過去の月の季節調整済系列の値が変わるという事実は好ましいものではない。現在2007年10月までの季節調整済指数が公表されているが、2007年12月値が公表された段階で、2007年の季節調整済指数は、2000年から2006年までの値も含めて改訂されるというわけだ。こうみていくと、物価変化を議論するにあたっては、季節調整済指数をメインに活用するのは好ましくないことがわかるだろう。さらに、季節調整にあたっては、2000年1月以降のデータから計測した平均的な季節変動を元に行うため、特定月に大きな価格変化が生じた場合にはその変化を季節要因として取り込んでしまう可能性もある。そうすると季節調整済指数には歪みが生じるという理解も可能である。

2.対前年同月比の利点
 消費者物価統計の物価変化を把握する上でスタンダードに用いられるのは、対前年同月比である。これは直近月の原系列と前年の同月の原系列の比率をとり、物価変化をみるというものである。
この方法を用いる利点は二つある。一つは、原系列を用いることで、季節調整済指数が毎年12月に改訂されるのとは異なって安定的な数値を得ることが出来るという点である。評価を行うタイミングで物価変化の値がコロコロ変わっては意味がない。まずは原系列を用いることで数値の安定性という要件が担保できるわけだ。二点目は、特定年の特定月の変化が大きくかつそれが不規則変動によるものでないかぎり、対前年同月比は簡易で確実な季節調整法ということだ。季節変動が安定しており、不規則変動が大きくなければ、前年の同月比の変化は、趨勢・循環変動によるものと看做すことができる。季節調整法が系列変化の中に潜む季節変動を推計により特定化し、それを除去するというものであれば季節調整法に基づいて対象期間内における共通の季節変動を抽出しているということになる。つまり対前年同月比の発想と同じだろう。勿論不規則変動が大きい場合には違いはある。但し、不規則変動はその労をいとわなければ別途考慮することも可能だろうし、大きな不規則変動が頻繁に生じるという事態は考えにくいのも事実である。

3.季節調整法は万能ではない
 以上のように考えていくと、消費者物価指数に基づいて物価変化を見る場合に季節調整済指数を主に参考とせず対前年同月比を用いる理由がわかるだろう。一つは参照した季節調整済指数が対前年同月比と比較して、改訂されるタイミングが早いという事実である。基準改定と合わせてさらに毎年末に見直しがなされるようではそれらの値から計算した物価変化を参考に毎月毎月の政策判断に利用していくのは難しい。そして、二つ目は対前年同月比をとることで概ね季節調整と同じ効果が得られるという点である。
 季節調整の方法や推計データの変更、X-12-ARIMA*4の場合はregARIMAモデルの次数、説明項の変更・一時的変動の特定化の変更をいつ行うのかというタイミングは季節調整済指数の安定性に大きな影響をもたらす。勿論、一定期間のデータについてトレンドを見る場合については季節調整済系列は有用である。しかし数%ポイントの微小な変化が大きな判断の違いに直結する場合には、参照数値が頻繁に変化することがない原系列に基づく季節要因の除去(対前年同月比)が有効だろう。
 月次や四半期データなら季節調整済系列を用いるのが万能かといえばそうではない。勿論季節変動の特定化にも推計という手続きが含まれるため、季節調整を行うことにより原系列の変化の重要な側面を見逃している可能性すらあるのだ。推計方法の改良とあわせ、この点も考慮に入れるべきだ。

*1:定義として系列変化が循環変動、趨勢変動、季節変動、不規則変動の4つに分解できるとすると、季節変動を特定化し、これを系列変化から除去したのが季節調整済系列ということになります。

*2:勿論、趨勢を見るにあたり多面的に把握することは重要です。その点を否定するつもりは毛頭ありません

*3:http://www.stat.go.jp/data/cpi/10.htm

*4:手前味噌で恐縮ですがhttp://www.murc.jp/report/ufj_report/301/32.pdfもご参照ください。