2008年4−6月期SNA(一次速報値)の結果から

1.一次速報値所感
 本日朝に内閣府から08年第2四半期のSNAの結果が発表された。実質GDP成長率については昨日公表されたESPフォーキャスト(http://www.epa.or.jp/esp/fcst/fcst0808s.pdf)の結果(年率マイナス2.04%)よりも悪く、前期比マイナス0.6%、年率換算でマイナス2.4%というものである。又、名目GDP成長率はマイナス0.7%(年率換算マイナス2.7%)であり、前期と比較してもデフレが進行していることがうかがわれる。
 前期比の結果から印象的な点は、実質及び名目とも内需・外需の寄与度が共にマイナスとなり、尚且つGDPを構成する各項目の伸びが軒並みマイナスとなっている点だろう。
内需に関してみると、季節調整済前期比では、実質ベースで民間消費の伸びがマイナス(マイナス0.5%)になったことが大きい。これまで我が国の経済が何とか持ちこたえてきたのは民間消費の伸びが底堅かったという側面が大であったが、昨今の原材料価格高騰の悪影響が着実に浸透していることがわかる。投資については、08年第1四半期にプラスに転じた民間住宅の伸びが再びマイナス(マイナス3.4%)に転じ、民間企業設備も08年第1四半期に引き続きマイナスとなった。公需は政府消費がプラスであるものの、公的固定資本形成はマイナスである。


(資料)内閣府資料より抜粋

外需についてみると、これまで我が国の経済成長を支えてきた外需、特に輸出の伸びがマイナスに転じている。輸出の伸びがマイナスに転じたのは05年第1四半期以来だが、当時の伸び率はマイナス0.5%と軽微な値であった。マイナス2%台であったのは、今般の景気回復局面の直前期である01年第4四半期以来である。そして景況悪化を受けて、輸入の伸びもマイナス2.8%となった。この結果は03年第2四半期以来であり、名目ベースの輸入の伸びはプラス2.8%であることから輸入デフレーターの伸びが5.6%であることになる。
 前年同期比でみると、実質GDPの伸びは1.0%だが、伸び自体は3.2%となった07年第1四半期以降徐々に減少している。そして名目GDPの伸びは08年第1四半期からさらにマイナス幅が拡大している。内需では、民間消費の伸びが1%を割り込む一方で民間企業設備投資の伸びはマイナスからプラスに転じている。外需では、輸入の伸びが03年第2四半期以来のマイナスに転じたことが大きいだろう。
 最後に物価動向について敷衍しよう。GDPデフレーターの伸びは原材料価格の高騰による輸入デフレーターの上昇を受けてマイナス幅が拡大している。民間最終消費デフレーターも引き続きプラス、国内需要デフレーターもプラス幅が拡大している。今週の指標(87号)(http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2008/0602/878.html)では、国内需要デフレーターの上昇には消費デフレーターの寄与が大との指摘がなされているが、引き続き消費デフレーターの寄与が高まるとともに、民間住宅及び民間企業設備デフレーターもプラスの寄与に転じている。輸入デフレータ程上昇率は大きくないものの、内需のデフレーターの伸びもプラスに展じてきていることが伺われる。


(資料)内閣府資料より抜粋

2.与謝野発言に関する雑感
 今回のSNA統計の結果を受けて、与謝野経財相がコメントしている(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-33229720080813)。景気の動向については「後退局面入りではなく、弱含んでいる」との表現に終始しており、一方で景気の底堅さについて言及している。つまり、以下の5点−(1)設備・借入れ・雇用の三つの過剰が既に解消していること、(2)日本のエネルギーに対する生産性は世界最高基準、(3)新興国向けの輸出増大、(4)サブプライムローン問題の影響は軽微であり、金融システムの健全性が維持されていること、(5)日本企業の内部留保の高さと低金利での資金調達が容易に可能であること−である。与謝野氏の議論は、この5つの点に基づき、08年第2四半期に減速したとしても以降の期にも続くとは考えがたく、今回の減速は対外要因で生じたと楽観的に捉えたほうが良いとのことである。
 以上の観察は楽観的に過ぎると思う。まず(1)については、現在の失業率は構造失業率(3%程度)を有意に上回っている可能性が高いため誤りである、(2)については、たとえ最高水準の生産性であったとしても現在において原材料価格高騰の影響が緩和しているとは言いがたく、寧ろ価格転嫁を押さえる方向に寄与しているのではないか、(3)については、今回の結果は新興国の輸出増大を含めたとしても全体としての輸出の伸びは減少しており、新興国が物価高を鎮圧するために利上げにより成長率を低下させる可能性を鑑みると新興国への輸出増に期待をかけるのは難しい、更に言えば、米国経済が力強い回復を示さない限りは新興国経済の活況も結局息切れするのではなかろうか、(4)及び(5)については、指摘のような良好な環境条件の下にあって、なぜ日本企業の利益は低迷するのか、設備投資は抑制されているのかという説明にはならないのではないか、との感想が浮かんでくる。
 今般の景気後退は、02年以降において景気を「回復局面」たらしめた外需の好況が剥落し、内需の悪化と外需の悪化が鮮明となってきたことを示しているものと言えるだろう。世界経済の減速が引き続き生じていくと見込まれるからこそ、本来ないがしろにしてきた課題が表面化しているわけである。与謝野氏はお手上げの模様だが、価格高騰に伴う購買力の低下が問題であるのなら、金融政策により購買力をつけることを志向する必要があるのではないだろうか。そして、現下の景気を良好に保つことこそが、与謝野氏が指摘するような我が国の強みを生かしていくことに繋がるのだろう。