最近の生産持ち直しの動きをどうみるか?

 まず、5月分速報で持ち直しの動きが見られる鉱工業生産指数の動向から見ていこう。5月の生産、出荷、在庫の値は前月比5.9%、4.5%、マイナス0.6%となり、季節調整済指数でみると79.2、78.7、96.5という状況である。確かに伸び率を見るとフリーフォール的な下落は回避されてきているが、2008年9月時点の数値は103.6、104.0、107.7であり、水準という意味ではリーマンショック以前の状況にまで回復するのは道通しという状況である。今後を占う上で有用なツールの一つが在庫循環図だが、これを適用して簡単に確認してみよう。
 以下の図は鉱工業全体について四半期ベースの出荷と在庫の前年同期比、前年同期末比を取って在庫循環図を作図したものである。図中には45度線が作図されているが、これよりも左上の場合は回復局面、右下の場合が在庫調整局面ということになる。原材料価格高騰といった供給ショックや急激な需要超過圧力が発生せず、大幅な需要の低下が不況をもたらすという現状では、在庫循環は着実に景気停滞の模様を描写する。

図:在庫循環図

図表の数値は原系列から作成している。出荷の代わりに生産を対象としても動きには大差ない。
出所:鉱工業統計

 04年以降の状況をみると、出荷は拡大しつつ、在庫はマイナスからプラスへと転換している。景気循環の動きをトレースするのであれば、好況から不況、不況から好況という循環の中で、在庫循環は時計回りで推移するというわけだが、2008年第3四半期以降の状況は45度線の左上ぎりぎりのラインから出荷が急激に低下しつつ在庫が縮小するという形で時計周りに在庫調整が進んでいることを示唆している。2009年第2四半期の状況は5月分データが公表された段階では不明であるため、6月分と5月分が同じとみなした場合の値を仮置きしているが、これを見ても在庫の縮小がより進み、そしてわずかに出荷の減速が止まったという状況が現在ということが言えるだろう。
 さて、興味があるのは、在庫循環図を念頭においた場合に、日本経済がどのようなタイミングで回復局面に入っていくのかといった点だ。図中には赤い点線でラインが引かれている。これは、在庫は変化ないと仮定した上で2009年第4四半期に出荷の前年同期比と在庫の前年同期末比が回復局面入りの境界である45度線に位置するように作図したものである。
 計算にあたっては、まず2009年第2四半期の仮置き値(2009年4月及び5月の平均値)から出発して、対前期比伸び率を与えて2009年第3四半期の推計値を計算した後に前年同期比を計算、同様に2009年第3四半期の推計値に対前期比伸び率を与えて2009年第4四半期の推計値を計算した後に前年同期比を計算、という手順で行っているが、在庫変化なしという前提の元で在庫循環図の45度線に乗るような出荷を2009年第4四半期に達成するために必要となる出荷の対前期比伸び率は8.1%となった。2003年第2四半期から2009年第1四半期の出荷額の対前期比をみると、4%台が最高であり、この結果からは年内に在庫調整局面から回復に転じるのは難しいように感じられる。
 月次ベースの伸びから考えてみるとどうだろうか。月次ベースで見た出荷の動きは2009年5月速報値の伸びが最も高く、落ち込みが激しいのならばそこからの回復も急激であるという見立てもありえる。仮に今回公表された2009年5月の在庫の対前月比(季節調整済)4.5%が持続的に生じるという状況を考えてみると、この場合には、四半期平均を計算した上で対前期比を計算すると先程の8.1%を越えるペースで出荷は回復する。但し出荷額が前年同期比ベースでプラスに転じるほどではない。今回公表された予測指数の結果を見る限りでは生産の伸びはプラスと見通されているものの、その伸びは5月時点よりも緩やかとなっている。こう考えると、生産持ち直しが指摘されているとは言っても、年内に在庫調整局面から回復局面に入ると見るのは時期尚早という状態と考えるべきではないだろうか。そして言うまでもないことだが出荷額が2009年内に対前年同月比でプラスになる(つまり2008年第3四半期の水準を回復する)可能性はほぼ絶望的といえるのだろう。