伊東光晴「現代に生きるケインズ−モラル・サイエンスとしての経済理論」

 伊東光晴氏の新刊が出たという事で購入してみました。科学ではなく「モラルサイエンス」としてのケインズの思想をロビンズの経済学観、計量経済学における科学としての経済学、ハイエクの経済観と対比させつつ、さらにスミスへの共感という観点から捉えつつ(第一章)、ケインズ理論の革新部分(第二章)、一般理論について(第三章)、IS-LMを巡って(第四章)、学説史としての展開(終章)という構成で書かれています。

 僕自身、学説史好きな一観客ですので大した事は書けませんが、全般的にこれまでの知識の整理をするには良い感じの本だと思います。乗数や流動性選好のあたりの話は分かりやすいですし。そういう意味ではマクロ経済学を勉強している学生さん向けの本なのかなぁ。新書ですので満員電車でも読めますしね。

 第一章については、「モラルサイエンティスト」としてのケインズについて書かれている訳ですが、計量経済学(マクロ経済モデル)に対する伊藤氏の感想?は当たっているとはいえ、現実にはforward lookingな形でのモデル分析・カリブレーションに基づく決定論的な分析手法も進歩している訳ですので、計量経済学側として批判に甘んじている訳ではないと思います。

 第四章およびヒックスとケインズに関連する部分についてはやはりhicksianさんのご意見を伺いたい所です。ヴィクセルやフィッシャー等々の経済学者との理論的関連性などは韓リフ先生の新作で勉強させて貰えば良いんでしょうかね。