政策目標としての潜在成長率を考える(その3)

 その1、その2で言いたいことはほぼ尽きているわけだが、補足的な論点として経済成長戦略大綱で掲げられている実質GDP成長率2.2%を達成することが可能なのか、数値目標として、この実質GDP成長率2.2%はどのように解釈すべきかを考えることにしたい。

5.実質GDP成長率2.2%という目標の持つ意味合い
 経済成長戦略大綱では、政府は各種の構造的施策を行うことで潜在成長率を高め、ひいては実質GDP成長率を少なくとも2.2%にするということが明記されている。問題はこの数値が目標としてどのような意味合いを持っているのだろうか、ということだ。
 まず数値により、実質GDP成長率2.2%という規模を確認してみることにしよう。SNAから今般の景気拡大局面(2002年1月以降〜現在)に対応すると考えられる2002年以降の実質GDP成長率をみていくと、年度ベースの実質GDP成長率は2002年度1.1%、2003年度2.3%、2004年度1.7%、2005年度3.2%である。これらの単純平均をとると約2.1%となる。ちなみに2003年度から2005年度までの実質GDP成長率の単純平均値は2.4%である。念のため、暦年ベースの値も合わせてみていくと、2002年0.1%、2003年1.8%、2004年2.3%、2005年2.6%となり、2002年から2005年までの単純平均値が1.7%、2003年から2005年までの単純平均値は2.2%となる。
 以上から考えると、「少なくとも実質GDP成長率2.2%を達成していく」ということは、2003年以降の経済成長のペースを保っていけばよいということと同義である。
 このラインを容易に達成可能とみるか、中々難しい課題だと考えるかは各人の判断に依存するが、「容易に達成可能」とみるのであれば、特段何もしなくても現状のペースを維持すれば良いのだから、掛け声だけの経済政策路線を踏襲し、ナイーブな景気下支え策のみを行っていれば問題はないだろう。問題は(その2)で指摘したような、潜在GDPを高めようとするあまり実態経済に下押し圧力がかかり、結果として現在の景気を冷やしてしまう可能性があるということだ。
 一方、「難しい課題だ」とみる場合、政策メニューである潜在GDP上昇を目的とした政策のみで果たして実質GDP2.2%以上を達成するという政策課題をクリアすることが可能なのだろうか。この場合には対外環境等の好転という僥倖がない限り「不可能」との文字が頭をよぎる。このようにみていくと、いずれの可能性を考えても潜在GDPを高めていく政策は、それのみでは実態経済の撹乱要因にならざるをえないと考えざるをえないのではないだろうか。