デフレはどこまで続くのか? (その1)

 我が国は長い景気回復局面に入っているが、依然として物価変化はマイナスであり、マイルドなデフレが持続している。このデフレはいつまで続くのだろうか?まずはGDPデフレータ変化の要因分解から、現在のデフレの原因を確認することにしよう。*1
 図表は、暦年ベースのGDPデフレータ(折線部)の変化をa)単位労働コスト要因、b)利益分配率変化、c)輸入価格要因、d)株価要因の4つに分けてみたものである。ここで単位労働コストは雇用者1人あたり賃金*2を実質生産性*3で除した値、利益分配率変化は名目ベースの生産性のうち、名目賃金に回る分を除いたもの*4、輸入価格要因はIMF,IFSの輸入価格指数、株価要因は東証株価指数である。



 棒グラフは以上の要因のGDPデフレータに対する寄与度を見ているが、このグラフからGDPデフレータの変化については以下の特徴が挙げられるだろう。


○95年以降のGDPデフレータのマイナスには単位労働コストがマイナスになったことが影響している。

○利益分配率要因は企業の経営環境の好転を反映してプラスが続いておりGDPデフレータの変化に対してプラスの寄与である。02年以降の景気回復局面の変化は85年以降の動きに匹敵するものである。

○株価要因、輸入価格要因のGDPデフレータに対する寄与は殆どない。


 では、単位労働コストの低下の原因は何だろうか。単位労働コストは、雇用者1人あたり賃金の変化と実質生産性の変化に分解できる。ここで雇用者1人あたり賃金は単位労働コストを上昇させる方向に働き、実質生産性の上昇は単位労働コストを下げる方向に働く。
 以下の図表は単位労働コストの変化要因をみたものだが、実質生産性の上昇が続くなかで、98年以降、名目賃金の伸びはマイナスになっていることがわかる。05年時点でわずかながら名目賃金の伸びはプラスとなったが、06年の伸びは0.05%とわずかである。



 景気回復局面でなぜGDPデフレータは下落しているのだろうか?以上の図表からは、企業経営が好転したこと(=利益分配率の向上)はGDPデフレータにプラスの影響を与えているが、単位労働コストの下落効果がそれを上回っているためだといえる。さらに単位労働コストの下落は名目賃金の低下により生じている。よって今後の物価動向を判断するためには名目賃金がどのタイミングによって安定的に上昇していくのか、企業経営は今後も好調を維持していくのかを考えていくことが必要だろう。

*1:以下の議論は赤羽隆夫氏の議論http://bizplus.nikkei.co.jp/keiki/body.cfm?i=20061025kk000kkを参考にしています。

*2:SNA及び労調から、雇用者報酬/雇用者数として計算

*3:実質国内総生産/就業者数

*4:1−(名目賃金/名目生産性)