GDPデフレータの作成方法についての備忘録

 度々で恐縮ですがbewaadさんのところGDPデフレータ(パーシェ指数)と実質GDPとの関係について議論されていますのでその点に関連してGDPデフレータの特徴や作成方法、等々について纏めてみたいと思います。誤解等ありましたらご指摘ください。

1.特徴:総合的物価指数かつホームメイドインフレ・デフレを示す指標
 我が国で主に参照されている物価指数としては、消費者物価指数、企業物価指数、企業サービス価格指数、輸出入物価指数、等々あります。GDPデフレータは、GDPを構成する各項目(消費、投資、輸出入)の物価指数を包括した物価指数であり、四半期毎に公表されています。GDPデフレータの特徴は、それが総合的な物価指数であるという点でしょう。つまり、経済全体の包括的な物価動向をつかむことができるという特徴です。 
付随してGDPデフレータの特徴は、それが「輸入品を除く国産品の価格変化(ホームメイドインフレおよびデフレ)を扱っている」という点です。例えば、原油の輸入価格が上昇した場合、これは一旦在庫にカウントされて在庫物価が上昇します。一方で輸入価格も同額だけ上昇するため、結局両者の物価変化はGDPの定義から打ち消されて輸入価格上昇はGDPデフレータには影響しません。但し、輸入した原油の物価上昇をうけて国内で精製したガソリン価格が上昇するといった価格転嫁が発生すると、その分だけGDPデフレータは上昇します。

2.作成方法:インプリシット・デフレータであること
 デフレータとは名目GDPから物価変化を除去した実質GDPを求めるために使用される指標です。つまり、集計量としての名目GDPを集計量としての実質GDPで割ることで結果的に得られるということです。そして、93SNAによるデフレータは名目金額を基準年次の価格で評価した金額で除したものであるため、必然的にパーシェ指数となります。
GDPデフレータは、各財の物価指数を集計して得るのではなく、I)名目GDPを財別・目的別・形態別に分割した上で、II)それぞれの支出額をパーシェ方式で算出した物価指数*1で除すことで実質値を求め、III)それらを集計して一旦実質GDPを作成し、IV)名目GDP÷実質GDPから別途算出するという形をとっています。このように結果として間接的に求められる価格指数をインプリシット・デフレータというわけです。
尚、04年末に固定基準年方式から基準年を毎年更新する連鎖方式に改めていること*2で、パーシェ方式に基づく下方バイアスは改善されています。さらに連鎖方式に改めたことで、実質ベースではGDPを構成する各項目(消費、投資、輸出入)の和がGDPと一致しない(加法性を満たさない)という特徴を有しています。SNAをご覧になると実質GDPの項目の中に開差項という項目がありますが、これが実質GDPと各項目の和の差を示しています。

3.作成方法その2:なぜ実質GDPは上方バイアスを持つのか?
 93SNAに基づく我が国のSNA公表値の具体的な計測方法については、「93SNA推計手法解説書(暫定版)」*3が公表されていますので内容を把握するにはこちらを読んでみるというのも一つの手でしょう。*4
 ここで論じてみたいのはなぜ実質GDPは上方バイアスを持つのかという点です。簡単な説明としては、インプリシット・デフレータとしての特徴から、実質GDP=名目GDP÷GDPデフレータが成立するため、名目GDPはそのままで、GDPデフレータがパーシェ指数により下方バイアスを持つならば、以上の式から計算される実質GDPは上方バイアスを持つということになります。
 より具体的には、基準年次を0、比較時点をt、基準時点の価格・数量をP(0)、Q(0)、比較時点の価格・数量をP(t)、Q(t)とし、基準時点における金額に対する比率(金額指数)の形で名目GDPを表記した上で、名目GDP(金額指数)÷GDPデフレータ(パーシェ指数)=実質GDPを計算することで実質GDPの集計方法が明らかとなります。

(ΣP(t)Q(t)÷ΣP(0)Q(0))÷(ΣP(t)Q(t)÷ΣP(0)Q(t))=(ΣP(0)Q(t)÷ΣP(0)Q(0))

右辺の値が実質GDPの集計方法を示していますが、これは基準時点0の価格をウエイトとして数量変化を集計した数量指数です。つまりラスパイレス型の数量指数となります。よって実質GDPは上方バイアスを持ちます。
尚、金額指数がラスパイレス型数量指数とパーシェ型価格指数を乗じた値と等しくなるという関係は恒等的に成立します。

4.今後の動き
 平成17年度確報値では、GDPデフレータを推計する際の最小単位の品目別価格指数である「基本単位デフレータ」についてパーシェ式の統合ではなく、フィッシャー連鎖式で作成するといった試みがなされています。又、消費者物価指数統計を反映して、新製品の追加もなされています。*5基本単位デフレータの推計の厳密化は望ましい方向でしょう。推計方法を変更したことによる各項目への影響は軽微のようです。*6 又、16年度確報値からは、連鎖形式に対応した生産面の実質系列も公表されており、支出面、生産面*7両面の連鎖実質系列を得ることが可能となっています。連鎖方式の実質値は加法性を満たさないことが特徴であるため、固定基準年方式の方が二面等価を確認し易いという意味では有用でしょう。内閣府サイトを見ると四半期系列の推計や資本ストック系列、等々の改訂が議論されていますので、適宜ウォッチしていきたいものです。

*1:基本単位デフレータ、輸出入デフレータ、等々

*2:関連して過去エントリhttp://ameblo.jp/econ-econome/entry-10005311051.htmlもご参照ください。又、これらの点も含めて資本統計や各国の経済統計の動向に関しては慶応大野村先生のHP中の経済統計のtips(http://www.kojin.org/index_j.html)が非常に参考になると思います。野村さんの著書『資本の測定−日本経済の資本深化と生産性−』は資本推計に関する著者の熱い思いが伝わる良書です。私も含めてですが、我が国で経済統計全体を熟知している研究者・専門家・実務家が少ないことは課題だと思います。

*3:http://www5.cao.go.jp/2000/g/1115g-93sna/93snasuikei.html

*4:但し、これを読んでSNAを自作できる程、内容を自家薬籠中のものに出来るかは疑問です。

*5:http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/061122/shiryou4.pdf 

*6:http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/070419/shiryou6.pdf

*7:生産面の実質化は生産額と中間財取引のデフレータ・実質額を確定した上で、その差額として推計するダブルデフレーション方式