野口旭(編)「経済政策形成の研究」

 韓リフ先生からお知らせいただいたとおり、やっと刊行されましたね。楽しみにしていたので本当に長かった・・・。とにかく書店で見つけられたら野口先生の序章を読んでみるべし。政策決定を行っているのは伝統的な経済政策論が意図しているような、全知全能かつ公平無私な政策遂行者ではないわけです。だから仮に現実を良く近似したモデルに基づいて専門知の知見に基づいた「有効な経済政策」を経済学者が提示したとしてもそれが受け入れられないケースがままあることになります。
 本書では以上の観点からスミス・リカードケインズ等の「偉人の思考」の研究としての伝統的経済政策思想研究ではなく、専門知が世間知へと転化した「陳腐化された偉大な賢人の思考」の体現者達がどのように現実の経済政策を左右しているのかを研究した書籍です。ということで、このような「陳腐化された偉大な賢人の思考」の体現者達の行動原理についての研究を、理論的研究(合理的選択政治理論の内容と限界、経済政策形成における「観念」の問題)、歴史的研究(松方財政、昭和恐慌、平成大停滞、構造改革主義に関する考察)、アカデミアにおける「共通の知見」(実践的マクロ経済学からの知見、「経済学的発想」と「反経済学的発想」の政策論整理)についての研究の3つに焦点を当てて纏めています。
 マクロ経済学が現在どのような地点に到達しているのかを把握するには先日紹介した林先生らの研究やシンポジウムの議論(現代経済学の潮流2007)と浅田先生の論考を合わせて読めばさらに理解が深まるでしょうし、「陳腐化された偉大の賢人の思考の体現者」の行動研究と「経済学的発想」と「反経済学的発想」の政策論研究を読めば現実流布している経済政策思想をどのように見るべきかの具体的枠組みが与えられることになるのでしょう。そしてその実践例としての歴史的研究・・・。う〜む・・お腹一杯な内容ですが、ワクワクしますね。
 経済政策を担当する人々、その政策を研究する人々は勿論、このような領域に興味をもたれる方に広く読まれるべき本だと思います。

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克