消費税の「社会保障財源化」・「社会保障目的税化」は正当なのか

 社会保障の問題に絡んで消費税の引き上げが話題に上がっている。これは高齢化の進展とともに社会保障給付費が増加することが予想されていること、例えば08年度から後期高齢者医療制度の新設や09年度には基礎年金の国庫負担割合を従来の三分の一から二分の一に引き上げることが予定されており、そのための財源をどうするかという観点から議論されているものだ。以下、消費税目的税化に関する論点を纏めてみることにしたい*1

1.消費税収と社会保障
 消費税の使途ということで言えば、既に99年度予算から消費税収(地方交付税を除く国分)を基礎年金・老人医療・介護に充てることが明記されている。その意味では、既に消費税は社会保障のために用いられている。まず、消費税と社会保障について確認してみることにしよう。先のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20070906)の数値から大雑把な議論をすると、社会保障への支出は21兆円、消費税収は11兆円弱という形である。よって現状では他の税収・国債発行から不足分10兆円程度を捻出しているという状況である。現行の社会保障費を全て消費税で賄うということになると、大まかに消費税率を10%にすれば何とかなるのかもしれない。
土居准教授は「社会保障財源を消費税で賄うことは、世代間格差を是正しつつ安定的な財源を確保することに繋がる。」と述べている。社会保険料は、主に勤労世代が支払っている。よって社会保障給付の財源を所得税で補おうとすると、必然的に勤労世代への増税に結びつき世代間格差が拡大していく。消費税であれば、勤労世代及び高齢世代も消費を行うため、世代間格差が是正される。この議論では「必要な社会保障費を満たすような消費税収を計算し、その税収を満たすような消費税率を設定し課税を行う」ということを国民に納得してもらえばよい(消費税の「社会保障財源化」)わけだ。

2.消費税の「社会保障財源化」・「社会保障目的税化」の論点
 消費税の「社会保障財源化」もしくは「社会保障目的税化」については、消費税を目的税にするのか否かの違いはあるものの、「社会保障費の増加分を補うために消費税増税で対処する」という枠組みは同様だろう。問題はこれが上手く機能するのかという点である。
 村上正泰氏は、社会保障費について「年金は物理的には(国民がどう考えるかは別にして)給付費の一律的な抑制は可能であるが、医療や介護については国民が医療サービスや介護サービスを必要とすれば提供することになるため、そもそも政府が一律に事前に費用をコントロールすることは不可能」と述べている。この認識に立てば、消費税収を厳格に目的税化してしまうと、社会保障費(医療・介護)は経済成長ときちんとリンクしているわけではないため、消費税収で補えない部分は自己負担分が増加するという状況に陥ってしまう。又、「社会保障財源化」においても社会保障費の水準をきちんと見込まないと結局自己負担分が増加するという状況になる。そして現実問題として社会保障費の水準を正確に見込むのは困難である。さらに消費税率を上げることが難しいという政治的な状況を考慮すれば、結局「財源化」や「目的税化」は社会保障費を抑制する方向に働くのではないだろうか。

3.財政赤字削減と社会保障費増大
 このように見ていくと、社会保障費の増大に対して消費税の目的税化及び財源化といった手法により増税を行うという理屈は自己負担分の増加を是認しない限り正当ではないということになる。勿論、社会保障費の増大に対して何らかの手当てを行う必要があるだろうし、そのために社会保障費自体の効率化・無駄の削減や他への支出を削減して対処するという方法もあり得るだろう。但し現状、我が国で行われている議論では、財政赤字を削減するという目的の中に社会保障費の増大という問題や、対処策としての消費税増税という手段が入り組んでしまっており、社会保障費そのものが持つ特徴・意義がないがしろにされているように感じられる。寧ろ議論すべきは(村上氏も述べているように)消費税を含む国民負担全体の水準と歳出のあり方であり、短絡的に消費税と社会保障費を結びつけるのは無理があるのではないだろうか。

*1:村上正泰「消費税は社会保障費抑制につながる」中央公論07年10月号等の議論、および慶應大学土居准教授の議論(http://www.med.or.jp/nichinews/n190905o.html)を参照しています。おかしな点等ございましたらご指摘ください。