齊藤誠「家計消費と設備投資の代替性について:最近の日本経済の資本蓄積」

 今年の日本経済学会秋季大会の石川賞講演論文。興味深い論点がいくつもあると思いますが、取り急ぎ論文中の要約のみ記載します。以下の要約中にある分析結果として記載されている側面はデータで把握されている現象ですね。備忘録。


http://www.econ.hit-u.ac.jp/~makoto/PDF/ishikawa_ando_hayashi_20070918.pdf

 Ando(2002)やAndo et al.(2003)によると、日本経済は1970年以降、設備投資が過大な状況にあり、家計部門は企業部門に対する投資で膨大なキャピタルロスを被ってきた。Hayashi(2006)は、彼らのファインディングを説明する簡潔な経済成長モデルを提示している。本稿ではHayashi(2006)のモデルによって、設備投資の過剰度合いを測る手段としてAndo(2002)が提示している安藤尺度を理論的に再検討する。さらに、安藤尺度を中心に活用しながら、戦後の資本蓄積過程とともに、2002年以降の戦後最長の景気回復局面を評価する。
 本稿の分析結果によると、2002年以降の景気回復局面は、民間非金融法人企業の資本収益率の大幅な改善を伴っていたという点で1980年代後半の資産価格高騰期と対照的である。しかし、そうした資本収益率の改善は、経済全体の付加価値生産性の改善ではなく、企業内部留保を厚めに、労働所得を薄めに企業部門の付加価値が配分された帰結であった。同時に、労働所得と利子所得が低迷して企業から家計へ付加価値が十分に配分されなかった結果、現在までのところ、設備投資に対して家計消費が改善されるに至っていない。
 また、消費一定で所与の効用を達成するのに必要となる同値消費水準に基づいた厚生比較によると、修正黄金率を超えていたと考えられる資本蓄積過程を伴った日本経済において、家計は年率数十ベーシスポイントの同値消費の劣化に相当する厚生費用を負担してきた。