竹中平蔵「経済悪化を直視せよ」を読む。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071119/plc0711191006003-n1.htm)から。
 詳細についてはリンク先を御読みいただきたいが、竹中論説の現状に関する指摘としては以下の三点だろう。

サブプライムの影響を比較的受けていないはずの日本が、最も大幅な株価下落を経験している。国内的な要因で経済の悪化が見え始めた。(1)
・(1)の要因として、経済面での構造改革が明らかに停滞し始めたことを市場が見切り、期待成長率が低迷していることがある。
・(1)の要因として、誤った金融政策の影響が顕在化してきたことだ。

 これらの点について少し補足すると、期待成長率低下の犯人は、構造改革の推進が不十分という事実に加えて、やはりサブプライム問題の深刻化による海外経済の低迷観測→海外経済好況に依存する輸出大企業の業況低迷観測といったところが大きな要因として左右しているのだろう。
 デフレ脱却が18年度中になされるという公約は守られなかったわけだが、ESPフォーキャスト調査(11月分)を見ると、CPIは07年10〜12月期から上昇に転じるという見通しのようである。月を追う毎にデフレ脱却が遠のいているのが気になるところだ。いずれにせよ年度ベースの統計で見た場合のデフレ脱却は08年度にずれ込むというのがコンセンサスのようである。
 自分も過去何度もエントリしているところだが、実質ベースの景気が拡大しているにも関わらずデフレが続き、名目ベースでの成長が先進国最低レベルであるという事実は何が問題なのかを真摯に議論すべきである。名目ベースの経済指標は実質ベースの経済指標に物価変化が加わった値であり、実質ベースの経済指標が良化しているのに名目ベースの経済指標が悪化しているのはまさに物価が下落しているためである。金融政策に携わる日銀の政策姿勢に問題が無いか、単に独立性を付与するのではなく政府内部であるべき政策についてもっと議論されてしかるべきだろう。
 所謂「上げ潮路線」と「積極的な増税路線」の対立の図式は、特に金融政策に関して国民か政府のどちらに負担を求めるかという側面で特徴づければ「上げ潮路線=政府及び政策当局の自己改革を求める路線」と「積極的な増税路線=現状を是認しそのつけを国民に負担を求める路線」という形になるだろう。
私個人は、失われた十数年において大規模な財政出動を行い構造改革では「いずれ良くなる」と言って国民に負担を求めた挙句に、財政赤字の累増をさも政府自らに責任が無かったかのような、天からの配剤のようなものとして看做した上で増税の必要性を謡うという姿勢は看過できない。増税を求めるのなら、まず金融政策を含む過去行われた経済政策の失敗について、原因も含めて総括し国民に謝罪すべきだ。その上に立って、名目ベースの経済指標が景気回復にも関わらずなぜ悪化しているのかの原因を公式見解として再度公表した上で、その対策を政府の見解として公式文書に盛り込み、政府が着実な実行にコミットすべきではないだろうか。
 政府は財政云々について過去の失政を前提として語るのではなく、(財政悪化という)失政を乗り越える努力をまず行った上で語るべきだ。「反省だけならサルでも出来る」が、サルでも出来ることが出来ていないのが現状である。こう言い募っても「悪魔的な政策」と揶揄するよりはましだろう。