経済成長率を高める政策は山ほどある。

 今月のVOICE2月号の経済論説は、「驚異的に成長する日本経済」と題しての特集である。その中でも竹中平蔵ロバート・フェルドマン増税路線は「自爆テロ」だ!」を興味深く読んだ。以下、印象に残った三点について大まかに纏めつつ、感想を述べることにしたい。

1.成功する「財政再建」、失敗する「財政再建
 我が国の財政状況は累積債務でみれば我が国が一年間に生み出す付加価値の総和=GDPを悠に超える規模である。これは主要先進諸国の中でも最悪の水準であり、毎年の財政赤字及び累積債務を減らしていくことが求められるのは言を待たない。ではどのようにして減らしていくのか。フェルドマン氏は、「財政再建」には三種類あると指摘する。

・歳出を増やしながら(歳出を上回る規模の)もっと大きな増税をする。(ア)
・大きく歳出を削減しながら大幅増税もする。(イ)
・歳出は削減しながら(経済)効率を上げる減税をする。(ウ)

 さて、どの路線をとれば「財政再建」は成功するのだろうか。答えを先に言えば、深刻な財政問題から脱却できた国々が一様に選択した路線は(ウ)である。つまり、歳出削減を行って赤字を減らし、一方で減税を行うことで経済成長を実現させ税収が増えることを狙うというものである。
 現状我が国が選択しようとしている路線はフェルドマン氏が言うように、又不幸なことに(ア)の路線だろう。歳出を増やし、さらに増税も行うわけだから大きな政府を目指すという「旧自民党」タイプの政策である。又、(イ)の路線は橋本政権タイプの路線だろう。これが財政再建の失敗をもたらしたのは記憶に新しい。
 そもそも財政とは何だろうか。既にエントリしているところだが、竹中氏が言うように、経済を良くしていくための手段として財政(及び政府)があるのだと思う。財政拡大をすれば全てうまくいくわけではないし、財政再建を真っ先にやらなければならないというものでもない。

2.経済諮問会議の職務放棄
 良しにつけ悪しきにつけ、福田政権に変わってから我が国をどう変えるかというメッセージが聞かれなくなったように思う。その一つの理由として、経済財政諮問会議の形骸化が挙げられるのかもしれない。竹中氏は、我が国政府の公約違反として、以下の三点を指摘している。

・2006年度に名目2%成長を達成するという公約を果たせず、さらにデフレは2007年度においても克服できないだろう。原油価格の高騰は消費者物価を押し上げるが、我が国の成長フロンティアにマイナスの影響をもたらす可能性が高い。よって実質成長が下がり、インフレになっても名目成長は上がらない。
・政策の選択肢を示せなかった。「改革せずに、物価がこれだけ上がり、経費がこれだけ増えたら、これだけの税収不足が生じます」というだけでは駄目だ。国民に選択肢を問うような形での主張はない。
経済財政諮問会議の職務放棄。諮問会議がマクロ経済の議論を放棄している。

 これら三点の処方箋も明瞭である。一番目の点については、原因を議論し、責任を追及した上で適切な政策を講じることがあるだろうし、二番目については増税ありきではなく対案を明示することが必要だろう。そして三番目についてはマクロ経済政策、特に脱デフレ策の具体的な方法を主題として議論することだろう。

3.成長率を上げるためには
 対談の中で指摘されているところだが、政策についてのアジェンダを描くことがまず必要である。そして、世界の国々が試みていることで、日本がやっていないものを行う、ということも必要だろう。そして、各国及び我が国が行った政策の過去の経験について学ぶべきだ。「〜できない」というのではなく、できるようにするためには何をすべきかを必死に考えるべきだろうし、実際「できるようにしてきた」からこそ、これまでの我が国の成長があったのではないだろうか。「〜できない」という理由のお膳立てを政府が悲観的な試算として挙げ、それを持って国民に負担を強いるのは本末転倒ではないだろうか。
 先日のエントリ「他の先進国と比較して日本経済はどこが特別なのか?」に関してTBを頂いているが、90年代後半以降のデフレの継続と名目成長率の低下は人災の要素が大きいと私は考えている。そうでなければなぜバブルが崩壊してこれまで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれていた我が国経済が突如長期停滞に陥ったのだろうか。経済を構成する国民の質はバブル前後で大きく変わらないと思われるにも関わらずである。
勿論、生産性を高めるという意味では、生産活動を行っているのは政府ではなく、各企業がメインプレイヤーであることは言うまでもない。そして企業が効率化を進め生産性を高めようと試みていることは今般の景気回復局面にあっても不十分ながら実質ベースでの経済成長を遂げていることからしても明らかだ。但し、殊に「デフレ」という問題により名目成長率が低下しているのであれば、その対応策は「適切な金融政策」である。そして「デフレ」から脱却できていないのであれば、その責任は政策担当者にこそ向けられるべきではないだろうか。