面白そうな論文三点

 自分用のメモ。明日読みますかね。

・大津敬介「実物景気循環理論と日本経済」(http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2008/08-J-08.pdf

本稿では、確率動学一般均衡分析の基礎となる実物景気循環RBC)モデルを理論的に解説し、当モデルを用いて日本経済の景気循環を分析する。まず、基本的RBC モデルは、全要素生産性TFP)の外生的変化によって、日本の景気循環の特徴を概ね説明できるが、労働投入量に関しては、変動が小さい、生産との相関が高すぎるなどといった点で説明力が低いことを示す。次に、景気循環会計モデルは、TFP労働市場における歪み(労働Wedge)の変化によって、労働投入量の変化を含めた日本の景気循環の特徴を説明できることを示した上で、バブル期における好況はTFP の成長が、90 年代不況は労働Wedge の拡大が主な要因であることを示す。これは、もしも金融市場の不完全性や銀行問題がバブルと90 年代不況の要因であるならば、それがTFP と労働Wedge の変化を通じて生産に影響を与えていなくてはいけないことを示唆している。最後に、国際RBC モデルを用いて、日米間の景気循環の相関関係は、TFP と労働Wedge だけでは説明することができないことを示し、両国間で、消費が平準化されず、投資が効率的に配分されないような障害が存在している可能性を提示する。

・荻原景子「経常収支不均衡の調整過程:近年の理論的分析の展望」(http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2008/08-J-12.pdf

本稿は、経常収支不均衡の調整過程に関する近年の理論的分析を展望する。まず、経常収支不均衡はいずれゼロ均衡に向かうとの前提に立って、財市場・資産市場での調整を中心に、実質・名目為替レートの調整過程を考察する。次に、国際金融市場における経常収支不均衡調整過程において、近年注目されている評価損益効果について解説する。最後に、経常収支が黒字の国と、赤字の国が長期的に並存しうる、との議論を多国間均衡モデルに則して紹介したうえで、アジアを中心とした新興市場諸国が米国の経常収支不均衡調整過程で果す役割について若干の考察を行う。

・北村行伸「家計別物価指数の構築と分析」(http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2008/08-J-06.pdf

本稿は消費者物価指数を全国消費実態調査の個票情報を用いて、各家計別に物価指数を構築し、それに家計属性やマクロ経済変数を加えることで、従来行われてきた物価分析に新たな視点を加えようとするものである。具体的には、平成11 年度(1999)の全国消費実態調査の各家計の消費バスケットに政府の消費者物価指数で用いられている品目別価格データを適用することによって家計別物価指数を計算した。この指数によって価格の変動が個別家計にどのような影響を与えたかを統計的に検証した。その結果、家計別インフレ率は正規分布に従っていること、そのインフレ率には粘着性があり、家計毎に固定的要素が影響を与えていること、すなわち、40-49 歳世代のインフレ率が最も高く、65 歳以上の高齢者のインフレ率は低いこと、18 歳以下の子供が多いほど、インフレ率は高くなること、東京や大阪などの大都市のインフレ率は一般に高いが、2000-2005 年には物価下落も大きかったことなどがわかった。家計別インフレ率はその分布情報など金融政策にとって有益な情報を提供してくれる。

大竹先生のブログで所得階層別に消費者物価指数を推計し、実質所得格差を分析したBroda and Romalis(2008)の紹介がされていましたが、全国消費実態調査の個票データには収入五分位階級別の支出データがあるので、Broda and Romalis(2008)と同様の消費者物価指数をつくることが出来るんでしょうね第一生命経済研究所の永濱氏の試算と北村先生の分析を合わせて考えると、消費者物価指数の変化に最も感応的なのは、40〜49歳世代で、低所得かつ子供が多く、かつ大都市部に住んでいる人ということになりますか。

(追記)大竹先生のブログでこちらのお話を踏まえたフォローをいただきました。ご参照ください。