Speculation and Signatures(by Krugman)

 上で取り上げた論争に関連して、原油価格高騰の原因についてクルーグマンが議論の整理をしています。ということで簡単にメモ。

・まず、クルーグマンは、原油価格とその期待変化率との間の関係は右下がりであるとし、この関係を縦軸に原油価格、横軸に期待変化率をとった右下がりの曲線として表現する。

カルボらの議論
原油を貯蔵するためのコストを考えると、カルボらの議論(将来の価格上昇を見越して投資家が原油を購入しており、投機的期待が現物市場の原油価格を押し上げている)では、原油の現物価格は、(利子+原油を貯蔵するためのコスト)と原油の期待価格変化率が一致する点Aで定まることになる。
・この点Aにおける価格水準は、原油の現物市場では、「超過供給下で価格が高止まりしている状態」に相当する。超過供給分は、価格が投資に値する水準まで将来高まると予想する投資家により購入され、棚卸資産の蓄積が進む。


出所:http://www.princeton.edu/~pkrugman/Speculation%20and%20Signatures.pdf

クルーグマンの議論
・一方で別の解釈もある。この場合は、現物価格は現物市場の需給均衡が成立している点Bで定まる。そして、この場合、上の解釈とは逆に先物価格<現物価格というバックワードな関係が成立し、棚卸資産の増加は進まない。
・データを見ると、原油市場が投機的需要により影響されているとは思えず、棚卸資産の蓄積が進んでいるようには思えない。そして先物価格は現物価格よりも低水準である。


出所:上と同じ。




(追記:6/26)Hicksianさんから上のクルーグマンのまとめに関するフォローを頂きました。http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20080623のコメント欄をご参照ください。
 以下、クルーグマンの論説を読んで上のFig3を簡単なモデルとして記述してみました。おかしな点がございましたらお教えください。

変数名の定義
内生変数
X_d原油需要量、X_s原油供給量、P原油価格、P_f原油期待価格

外生変数
i:利子率、S_c:Storage cost、Z_d:需要側外生要因(例えば新興国成長率)、Z_s:供給側外生要因(例えば埋蔵量)


Fig3:クルーグマンの議論
X_d =\rho_d+\beta_d P+ Z_d ・・・・・(1)
X_s =\rho_s+\beta_s P+ Z_s ・・・・・(2)
{(P_f-P)\over P} =i+S_c ・・・・・・・ (3)※分子のP_fPが逆になっていましたので修正しました。
X_d =X_s ・・・・・・・・・・・・・・(4)

 (3)式はP_fについて解けば、P_f =P(1+i+S_c)となり、期待価格についての裁定式に帰着します。
(1)と(2)、(4)式から外生変数Z_d及びZ_sの下で原油需要量及び供給量と原油価格が定まり、均衡原油価格を(3)式に代入すれば、利子率及びStorage costを外生とした際の先物価格P_fが決まるという形になります。
 この場合、逆ザヤが成立するための条件は、[tex:P_fS_c]が成立することです。つまり、利子率がStorage costよりも高い水準であれば逆ザヤになる。例えば利子率が金融緩和によりStorage cost以下の水準になると、クルーグマンの議論からすれば順ザヤが成立することになります。Storage costが大きく変わらないとすれば金融緩和はfig3のInterest plus storageの垂直線を左シフトさせていくということでしょうか。
 尚、クルーグマンが整理したカルボの議論では、原油価格Pの元で投資家が予想する期待価格P_fは(3)式の関係に従うわけですが、このとき、期待価格P_fが価格Pを決定しているというのであれば、それは需給均衡を満たさず超過供給になっているだろうということになりますか。

(追記:6/26)
 モデル式はあっていると思いますが、下の解釈については吉岡さんからトラックバックいただいた記事の議論をご参照ください。いやぁ興味深いです。もう一度クルーグマンの議論を読みつつ、吉岡さんのエントリの内容を咀嚼しつつ自分なりに考えつつ、本エントリは修正する予定です。

(追記:6/27)
 取り急ぎ、クリティカルな誤りのみを修正しました。ご案内の通りですが、いやはや凄い勢いで議論の応酬が繰り広げられてますね(笑。忙しいので中々全てきちんとフォローできないのですが、クルーグマンのエントリ(各リンク含む)が纏まっているでしょうか。僕が巡回しているblogほぼ全てでこの話題のような気が・・・wwww