最近読んだ本から

 最近読んでいる本をわざわざ晒さなくても良いという突っ込みはさておいて、やはり金融危機の話題とか過去の経済政策の状況とかといった話が気になっている昨今です。
 ということで、一冊目はご存知、若田部先生の新作『危機の経済政策』。
 先週末の日経の書評欄(なんか馬鹿丸出しの一言が入っていたみたいですけど)でも掲載されていましたが、若田部先生の新作本は凄い本ですね。これは読書感想文を書きたいところです。でも対象範囲が広くて中々感想を纏めるのは大変だなぁ・・。自分の能力だと。コンパクトに纏まっているので見通しが立ちやすいのも魅力ですし、学生の方で一通り経済学の知識を手に入れた方が読むのにも歯ごたえはありますが良い本ではないでしょうか。秋の読書シーズンには一押しの一冊。

危機の経済政策―なぜ起きたのか、何を学ぶのか

危機の経済政策―なぜ起きたのか、何を学ぶのか

 二冊目は最近刊行されている金融危機がらみの本で一番面白かったのが、ブルナー・カーのお二人による『ザ・パニック』。安達さんの書籍やクルーグマンも指摘していますが、今回の世界金融危機は丁度100年前に生じた1907年金融危機と(危機の伝播の形が)非常に良く似ています。
 この本は危機に当時の人々がどのように立ち向かったのかという話題を中心にJ・ピアポント・モルガンの人物像と「最後の貸し手」がなかった当時の米国が金融危機にいかに対処したのかを記述したものです。個人的には人間群像に興味を持って購入したのですが、この本が面白いのは、教訓として1907年危機がどのようにして生じたのかということと、2007年サブプライム危機の流れがコンパクトに2章分のスペースを割いて纏められていることですね。今回の世界金融危機が「パーフェクトストーム」としての危機かどうかは(まだ危機が終結していませんので)議論のあるところでしょう。
 だが、情報の非対称性に晒される預金者と株主、貸し手と借り手という関係が両者の協調行動を阻害しがちであるという、経済を支える「信用」機能の持つ宿命的ともいえる構図を念頭に置くと、なんらかの形で危機が表面化することで両者の協調行動は阻害され、結果として古典的な「囚人のジレンマ」に陥り、各々にとっての最適戦略の結果として投売りが進み、そして信用危機によって信用は阻害されて資産価格は下落、さらには実体経済も悪化するという流れは金融危機に共通のものでしょう。
 その際に信用危機の悪化をいかに食い止めるかは、まさに中央銀行や政府が貸し手と借り手の間の協調行動の断絶をいかに架橋するかにかかっているわけです。一つの方法は両者にとって必要な流動性を提供すること、そしてもう一つの方法は機能不全に陥った市場を市場として成立させるよう下支えすることでしょう。現代の場合はバーナンキの信用緩和政策、1907年危機の場合はJ・ピアポント・モルガンがリーダシップをとって行ったクリアリング・ハウスによる金融機関の救済という訳です。
 そして危機がどの段階で食い止められるのかは、中央銀行・政府が市場の悪化をどの程度完全に食い止められるのかに尽きるわけです。最近のFOMCでも明言されていますが、当面の危機からは脱せられたと言えるのかもしれません。しかし個人的にはこの判断は「早すぎる出口政策」の序曲のような気がしてならないのです。
 楽観的な見方を成立させる理由は、資産価格の上昇から実体経済が改善していくという経路でしょう。リフレーション政策の効果を論じたいくつかの研究からは(たとえGDPギャップが拡大していても)期待の反転が期待インフレ率を上昇させて実質金利を引き下げ、実体経済に波及するという好ましいパスが観察されています。
 ただ現状そのようなパスが生じているとは思えないのです。例えば、名目ベースでみると、容赦の無い金融緩和により米国のクレジットカードローン、個人ローン、車のローン、モーゲージローン金利は昨年9月頃と比較して改善しています。ただ、実体経済の悪化に伴って期待インフレ率の伸びが低下しているため、実質金利は高止まっているのではないかとも感じられます。
 FRB財務省の介入によって銀行間金利はほぼゼロにまで下がり、超過準備が蓄積されることで銀行部門の業績は改善し、それが株価の上昇に寄与しているわけですが、実質金利の高止まりが実体経済の改善を抑制しているようにも見受けられるのです。こう考えると、明確にインフレ期待に働きかけるような政策への移行(つまりインフレターゲティングですが)が現時点の米国にとっては必要なのでは?とも思うのです。

ザ・パニック

ザ・パニック

 閑話休題。まぁこう見ていきますと、今度は金融恐慌がどのようなメカニズムを辿って過去成立したのかを包括的に頭に入れてみたくなるわけです。ということで、昔読んだキンドルバーガーの本(「熱狂、恐慌、崩壊」)を引っ張りだして再読(汗。この本は過去の様々な金融危機を取り上げながら、金融危機の過程を横糸に、各過程についての豊富な事例として過去の金融危機を縦糸として、金融危機とはどのような形で生じるものなのかを論じた本です。現代的な意味合いで一番役立ちそうだと感じるのは「最後の貸し手」と「国際的な最後の貸し手」について論じた10章から12章のあたり。古くて新しい話題かもしれませんが、単に危機を煽るだけの本を読むよりはずっと有意義な時間を過ごせる筈です。サブプライム危機が生じた当初ですと、CDOとかCDSとかそういった複雑な商品の話題がクローズアップされ易いのですが、結局今の段階になると金融危機の本質って何か・どう類型化できるのかという点に興味が移っていくわけです。そんなニーズにはすっとはまる一冊でしょうね。

熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史

熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史

 あとはキンドルバーガーの本ですと、大恐慌の国際的連関を重視しつつ描いた「大不況下の世界」も面白いですね。個人的な趣味ですが。

大不況下の世界――1929-1939 改訂増補版

大不況下の世界――1929-1939 改訂増補版