量的緩和策について

2001年3月に量的緩和策が導入され、既に4年以上が経過しています。昨日の投稿で量的緩和策について少し述べたので、その点を手がかりに考えてみたいと思います。ご存じの方も多いと思いますが、そこはご勘弁下さい。


1.考え方

日銀は従来、金融政策における操作目標として「無担保コール取引のオーバーナイト金利」を用いていました。だが、金利水準を極限まで下げても景気下押し要因があることを考慮して、マネタリーベースである日銀当座預金残高という「量的指標」に切り替えた訳です。

日銀の考え方としては、「マネタリーベースの供給が「流動性の供給」であると考えられる範囲内で出来ることを徹底的に追求してきた」という事です。



2.目的

量的緩和、つまりは日銀当座預金残高を核としながら、



?円滑な金融システムの確保を図る信用秩序維持としての役割

?物価の安定および経済の発展を実現するための金融政策



という2つの側面を目的としています。?の信用秩序維持は、潤沢な資金提供により金融機関の資金繰りを優位にすることにより信用秩序を維持するというものです。?は量的緩和を進めつつ、名目金利をゼロ水準まで誘導することで経済に対して最大限の緩和をもたらそうとする狙いがあります。



3.手段

量的緩和策を含めた日銀の政策手段は、大きく5点あります。



?当座預金残高ターゲティング

?なお書き

?時間軸効果

?補完貸付

?長期国債買い切り



です。

?は当座預金残高をある一定水準にコントロールする事です。

?「なお書き」とは?で日銀が想定した当座預金残高を上回る需要が発生するといった金融市場のショックが生じた場合には、日銀が短期金利の高騰を抑え、金利を低めに誘導することを明示することです。

?時間軸効果とは、短期金利が??の結果として「ゼロに限りなく近い水準で推移することになる」という予想が市場に生じると、中長期金利短期金利の低下予想に伴って、低水準で安定化する効果を指します。?補完貸付とは、?の当座預金残高が十分であっても一部の金融機関のみが資金を抱え込むといった際には他の金融機関に十分に資金が行き渡らない可能性が生じます。そのような場合に、金融機関が適格担保さえあれば公定歩合で資金を日銀から借り入れることが出来る制度の事を言います。?と合わせて?により安心感をより醸成させる効果を持っている訳です。

?の長期国債買い切りは、日銀が?の目標値を実現するために必要ならば、日本銀行券の発行残高の範囲内で長期国債の買い入れを増額することにしています。日銀は長期国債を購入することで日本銀行券が長期国債保有者(金融機関)に行き渡ることになり、市場に貨幣が流通することになります。



4.効果

では、以上の手段により、日銀が目標とする信用秩序維持、物価安定および経済活性化を目標とした金融政策はどのようなメカニズムを通じて達成されるのでしょうか。

波及の仕方は日銀のエコノミスト、民間エコノミスト(自分もその端くれですが・・)の間でも様々な考え方がありますが、?資産価格への影響、??を通じた実体経済への影響と整理するとこんな形になります。



?資産価格への影響

金融調節が資産価格、債券価格に与える影響をみるわけですが、具体的には、将来の経済見通し・金融政策の予想が実体経済に与える影響、ポートフォリオ・リバランス効果によるものの2つが考えられます。



ポートフォリオリバランスについて補足すると、日銀が流動性の高い短期資金の供給を増やすことで、流動性の高い資産から得られる便益は低下するわけですが、この場合、日銀が政策として刺激を与えていない流動性の相対的に低い資産(長期国債など)の便益が金融機関にとっては魅力的なものにうつってくる訳です。仮に短期資産の便益が長期資産の便益を下回ると金融機関は短期資産から長期資産へと資産構成(ポートフォリオ)を移す訳です。結果として長期資産の資産価格が高まり、コインの裏表の関係にある長期金利が低下するという効果が見込まれます。



?資産価格から実体経済への影響

 金融政策は金利をチャンネルとして設備投資などの投資額に影響を与え、それがGDPを刺激するというのが基本的な考え方です。

その他にも金融緩和が資産価格上昇に繋がる効果により、それが企業の財務状況を容易にすることで投資を増加させる効果(クレジット・チャネルを通じた効果)や、国内金利が相対的に低下することで外貨建て資産が先行されると円安が進み、外需(輸出)が増大するといった効果もあります。


5.量的緩和策の今後

 最近、量的緩和策についてUFJ総研が面白いレポートを出しています。

http://www.ufji.co.jp/cgi-bin/link?/publication/report/souken/2005/050811.html



 これによると、量的緩和政策に基づき日銀当座預金残高を増大させても、景気や物価動向にはあまり影響を与えなかったが、ゼロ金利固定にコミットすることで実質金利を低下させることで金融緩和の効果が高まったとされています。結局、これまでの短期金利にコミットする政策にうつることと何ら変わらないとの判断のようです。



実際のところ、どの手段がどのような効果をもたらしたのかの検証は、データの蓄積を待ちつつ、実証分析の蓄積から判断されるべきものだと思います。また各効果の評価については日銀とエコノミストの間で判断が分かれるところです。



 いずれにせよ、量的緩和策は我が国の物価安定化、信用秩序の維持に寄与していると思います。昨日の民主党マニフェストではありませんが、ある経済政策が「異常」であるとして非難するのではなく、具体的な対案を明示すべきでしょう。経済政策は異常か否かで判断されるべきものではなく、現実の経済状況に即して弾力的に遂行されるべきものだと考えます。現行の量的緩和策は、「消費者物価指数が安定してインフレになる」までコミットし続けることを明示している訳ですから、信用秩序維持の観点からも日銀は現行の政策路線を貫くべきです。