外国人労働者受入れの経済的影響

今日は少し毛色が違いますが、外国人労働者の受入れについて書いてみたいと思います。



1.背景

まず外国人労働者の問題が生じてきた背景は大きく2点あると思います。

まず対外的な要因です。1990年代以降世界各国ではFTAの締結による地域的な結びつきが高まっています。我が国においても2000年以降、シンガポール(2002年発効)、メキシコ(2005年発効)、フィリピン(2004年11月大筋合意)、マレーシア(2005年5月大筋合意)、タイ(2005年8月大筋合意)との経済連携協定を進め、さらに今後は韓国、ASEANとの間の経済連携が予定されています。

経済連携協定は関税撤廃といったモノの自由化のみならず労働力および資本の自由化・円滑化を含む概念ですが、今後我が国は具体的に労働力の自由化について各国との間で意思表示を下していく必要があります。

さらに国内的な要因としては、高齢化があります。現在我が国においては他の先進国に先駆ける形で急速な人口減少・少子高齢化が進展しています。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」(低位推計)によれば、我が国の人口は2030年には1億1300万人程度と1980年代の水準まで落ち込み、0〜14歳人口比率は1割を切り、65歳以上比率は3割を超えることが見込まれています。

依然としてマイルドなデフレが続く我が国経済にとって労働力の減少は経済活力の低下に直結するために、この意味でも外国人労働者をいかに活用するのかを本格的に議論する必要があります。



2.経済分析により何が言えるのか

 外国人労働者に関する研究は過去様々な視点に基づいて行われてきた訳ですが、経済的な影響についてはあまり大きく取り上げられず、安全等への影響の側面が大きくクローズアップされてきたように感じます。ということで、経済的な影響は何があるのか、既存の研究成果から見ていくことにしたいと思います。


(1)実体経済への影響

 アプローチとして労働経済学の視点に基づくものと、国際経済学の視点に基づくものがあります。

 労働経済学の視点に基づく結果からすると、

  • 受入国では労働者の増加に伴い、国内労働者の労働所得は減少、資本所得は増加し、国民所得は資本所得の増分が労働所得の減少分を上回る際に増加する。
  • 送出国では出稼ぎ労働者の労働所得が送金されることを考慮すると労働所得は増加、資本所得は減少、結果として国民所得は増加する。
  • よって国際労働移動は送出国、受入国双方にとって国民所得が増加するために好ましい。


 となります。実証分析の結果(通商白書2003)をみると、我が国の専門労働者の比率を米国並みにまで高めるとすると、786万人の受入れが必要となりますが、この際には我が国の実質GDPは2.8%上昇し、専門的労働者の実質賃金は5.8%減少、生産および市場価格もサービス産業を中心に大きく増加するとの結果になっています。これらを見ていくと、経済へのインパクトはかなりあるものと推察されます。実際に外国人労働者が定着していくようになればより効果は大きくなるのでしょう。



(2)財政への影響

 財政への影響については、面白い分析結果がなされています。

 法務省が公表した分析によると、専門労働者、非専門労働者を我が国に受け入れた場合には専門労働者のみを受け入れた際には我が国の財政・社会保障収支は黒字に、非専門労働者のみを受け入れた場合には財政・社会保障収支は赤字になるとの結果が出ています。このような差が生じるのは、非専門的労働者の賃金水準が小さいため、税収がのびない事が大きいようです。



3.まとめ

 以上より、外国人労働者を受け入れる場合には、実体経済、財政・社会保障への影響を考慮しつつ専門労働者・非専門労働者をバランス良く受け入れていくことが望ましいということになります。実際は経済的メリット以外にも社会的な影響も考慮しなくてはいけないのでしょう。不法外国人労働者流入も大きな問題ですので、経済的なメリットを考慮しながら制度面での規制の構築を進めていくことが必要なのでしょう。

 一方で、世界各国の人に関する市場を見ていくと、有能な技能を有する人々をいかに受け入れるかで国際競争力が左右される時代に来ています。我が国にとってどのような人を受け入れる必要があるのか、送り出し国にとってのメリットは何かを考慮しつつ、経済連携協定の枠組みをさらに一歩具体的に進めて行く必要があると考えます。