2006年3月、4月の量的緩和解除に反対します。

巡回先のブログで話題になっておりますので、意思表明などを。

ニュース等でもご存じの通り、日銀の量的緩和解除の動きがさかんに展開されています。1月の消費者物価指数(コア)が前年同月比0.5%となり、昨年10月以来プラスとなっていることをうけてのことです。確かにプラスとなっている訳ですが、以下の理由から「安定的」にプラスとなっているかは疑問です。

理由その1:上方バイアスの存在

ボスキンレポート、および最近の日銀レビューでも指摘されていますが、消費者物価指数はラスパイレス算式に基づいて計測されているため、基準年から乖離するにつれ上方バイアスが生じることが広く認識されています。このバイアスは最近の日銀レビューでは0.2%ポイント〜0.3%ポイントとの事です。これを加味すると、消費者物価指数の対前年同月比は1月に入ってやっとプラスとなるとの結果になり、少なくとも1%程度の伸び率が観測される段階でなくては「デフレが終わった」とは言えないのではないでしょうか。



理由その2:月次(季調値)の推移

 「デフレから脱却したかどうか」の観点では、前月の値からの変化率も重要でしょう。こちらも1月期では0.3%の伸びとなっていますが、上方バイアスを加味すると0.1%程度の伸びとなってしまい、昨年10月〜12月期の伸び率はマイナスとなります。また、季節調整を加味しない場合には、1月の前月比はマイナスの水準です。これでデフレから脱却していると判断するのは早計でしょう。

 付言すると、そもそも水準で見た場合には2000年を100とした場合には97.7ですので、まだ2000年の水準にまで物価は到達していないことになります。



理由その3:今後の物価動向

 日銀の公式見解は解除を前提とすると、「現在はデフレではなく、さらに今後デフレに逆戻りしない」という認識のようにとれます。

 一方、内閣府が2月に出した月例経済報告の物価についての見通しをみると、「消費者物価は、横ばいとなっている。最近の動きを類別にみると、一般商品、一般サービス、公共料金は、おおむね横ばいとなっている。なお、昨年11月以降、消費者物価の前年比は上昇しているものの、石油製品等が押上げ要因として働いていることなどを踏まえ、物価の動向を総合してみると、物価は緩やかなデフレ状況にある。」ということで現状緩やかなデフレにあるというのが政府の見解です。

 「デフレかそうでないか」といった点について日銀と政府の見解には相違がある訳ですが、逆に相違がある段階では「デフレが終了した」とは言えないのではないのでしょうか。



何のための「量的緩和解除」なのか

 余談ですが、日銀が解除を急速に進める背景には自らが行っている地均しが嘘だったという事態を避けたいという意図があるのだと思います。他のブログ等を拝見すると、3月解除という話は最近になって浮上してきたような気もしますが、総裁発言等で解除を匂わせたにも関わらず実際には解除しないということになるのは日銀にも避けたい所でしょうか。

 8月になると基準年次の改訂(2000年基準から2005年基準への変更)が予定されている訳ですが、基準変更に伴って過去の数値まで遡って上方バイアス分が修正されます。恐らく1月の値は0.5%よりも低水準になることが予想され、解除の際に判断した値はマイナスだったという結果になるのではないでしょうか。そういった事態が容易に予想される中で解除を強行すればそれこそ自らの判断が誤りであることを露呈する結果になるのではないでしょうか。

 日銀は物価の番人であり、実態経済に対しても重要な責任を有しています。その中で自らの面子や都合で解除を行うという愚は避けて頂きたいと強く思う所です。