日米金融政策のパフォーマンス比較

 Mankiw(2001),"U.S. Monetary Policy During the 1990s"では題名の通り、眼目は1990年代の金融政策のパフォーマンスを比較することにあった。過去エントリ(小泉政権下の経済変動を考える−1970年代〜現在までの経済変動をみる−)では日本経済のパフォーマンスをMankiw(2001)の手法に基づいて跡付けてみたが、論文の主題である「金融政策」についてみていくとどのような事が言えるのだろうか。以下、?マネーサプライの変化、?金融政策の感応度の2点について確認してみることにしたい。

1.マネーサプライの変化
 金融政策当局は貨幣数量に影響を与えることで金利を操作し、そのことで物価の安定化をはかる。以下の図は日本は日銀資料、米国はMankiw(2001)に記載されている値を参照し、日本については1970年代〜1990年代、米国については1960年代〜1990年代までの期間についてマネーサプライの変化率をみたものである。

 我が国は1970年代の変化率が16.3%と高く、以降は年代を追う毎に平均伸び率は減少し、そして標準偏差も減少している。米国においてもM2の平均変化率は減少しており、標準偏差は安定的に推移している。物価安定化という視点で見た場合、マネーサプライの伸び率を安定させる事が重要であるが、米国と日本では事情が異なる。それは2000年代には日本はデフレに陥っており、尚且つ貨幣数量を変化させる事で金利を操作するという従来の政策手段を用いることが出来なかったのに対し、米国は1990年代に3%というインフレ率を達成し、物価変動を最小化させるという状態の中で安定的なマネーサプライの変化を達成したという事実である。

2.政策金利の感応度
 Mankiw(2001)では、金融政策の効果を考える指標として、政策金利の感応度を計測している。
仮にインフレ率が何らかの原因で1%上昇した場合、金融政策として何%の政策金利の引き上げが必要なのだろうか。政策金利の引き上げはインフレ率の減少を目的にしてなされる訳だが、政策金利の引き上げが1%未満に留まる場合、実質金利名目金利−インフレ率)は減少するため、更なる経済の過熱(インフレ)が生じることになり、インフレを押さえる為にさらなる政策金利の上昇が求められることになる。逆の場合にはデフレが1%進んだ場合、それは実質金利の上昇をもたらすことになり、デフレを押さえるには1%以上の政策金利の引き下げが必要となるだろう。そうでないと実質金利は当初の水準を上回り更なるデフレを引き起こす事になるためだ。
Mankiw(2001)は各年代について、政策金利(FFレート)を被説明変数、失業率、消費者物価指数(対前年同月比、コア)を説明変数として回帰式を計測し、消費者物価指数(対前年同月比、コア)のパラメータを政策金利の感応度として記載している。
 以下の表は日本について政策金利*1、失業率*2消費者物価指数*3を収集した上で回帰分析を行い、Mankiw(2001)と同様の感応度を計測した結果である。尚、ゼロ金利政策が行われた1999年2月以降のデータは推計期間から除外している。

 米国の1990年代の数値をみると1.39となっており、感応度が1を超えている。これは米国がグリーンスパン議長の下で政策金利の感応度を高め、効果的な金融政策を行ってきたことを示している。又、政策金利標準偏差は米国の1990年代の数値は1.39と過去最低である。このことは政策金利の変更がある特定の期間に速やかになされたという事実を示している。
 日本はどうだろうか。我が国の政策金利の感応度は米国とは対象的に、1980年代には0.91と1に近づいたものの、1990年代には0.50と減少しており物価の変化に対して効果的な政策金利の適用がなされていなかった事を示している。さらに標準偏差の値は最大であることを考慮すると、統計からは不十分な政策効果をもたらす政策金利の変化が小出しになされたと言えるのではないだろうか。

*1:1970年1月〜1994年9月までは公定歩合、1994年10月以降は無担保コールレート(オーバーナイト物)

*2:完全失業率、季節調整済

*3:対前年同月比、コア