グローバル化改革専門調査会の議事録から

 経済財政諮問会議の専門調査会として、グローバル化改革専門調査会が設置され、議論が行われるようです。具体的な議論はEPA・農業ワーキンググループと金融・資本市場ワーキングを設置した上でなされるということですが、この二点は政策としては今後問題となってくる話題だと思います。さて、会長は伊藤隆敏先生な訳ですが、議事録中の伊藤先生の発言の中で「むむ!」と思った点に関連して。

 まず「むむ!」と思った点。

 WTO/EPAについては、中長期的なEPAの戦略について具体的に検討したい。1番目に、EPAを締結した場合に日本の特定の産業にこれだけの損失があるというような試算が良く出てくるが、もちろん逆にメリットもあるわけで、直接のメリットと間接のメリット、それからよく試算されるコストについてどういうふうに考えたらいいのか、ご議論いただきたい。
 特にメリットという場合によく消費者利益という観点が欠落している場合がある。輸入競争にさらされる産業の生産額は減少するかもしれない一方で、逆に消費者が安い価格を享受できるといったように、まずフレームワークとしてどういうものをコストベネフィットと定義すべきかをご議論いただきたい・・・・

 なぜ「むむ!」と思ったかといいますと、(手前味噌で恐縮ですが)実は引用部分の後段の部分の問題意識に即して何年か前に試算を行ったことがあるからです。(http://www.murc.jp/report/ufj_report/802/32.pdf

 私も伊藤先生と同じ認識でして、特に通商政策に関しては、生産者余剰と消費者余剰が政策前と後でどのように変化すると考えられるのか、という点は重要だと思います。FTAの効果で必ずといっていいほど議論がなされるのはFTAにより農業がこうむるダメージです。実際には関税自由化の例外品目として扱われることが多いのですが、「FTAによる特定産業への悪影響」と「FTAによるメリット」をきちんと仕分けし、同様の枠組みの上で見ていくことが必要でしょう。そして、ダメージを議論する場合には生産者余剰の減少とともに消費者余剰の増加を共にみることも必要だと思います。
 
 以上のような思いもあって試算を行ってみたのですが、CGEモデルでは一般均衡の視点で試算が可能であるというメリットがある一方で、特定産品を詳細に分析することは不可能というデメリットがあります。
 このような事情で部分均衡的な視点に基づく試算を行いました。分析手法は各財について可能な限り詳細な分類に即して貿易保護の度合い(関税及び非関税障壁)を推計した上で、当該財について海外財を含む部分均衡モデルを作成して、各種弾性値を別途推計し、貿易保護水準が撤廃された場合の需給への影響を見ています。非関税障壁の推計については実証上の問題点としては小宮先生に代表されるように「国内財と輸入財の品質格差が大きな価格差に反映されているのではないか?」という指摘があります。これらの点についてはエントリで取り上げたいところですが、公表ベースで統一的に把握されるデータでは限度があります。そこで自らの推計の検証を行うべく、個別統計にあたりながら貿易保護水準がとくに大きい財について制度的な側面も含めて分析を行っています。(http://ideas.repec.org/p/eti/dpaper/04015.html)

 我々が試算を行ったのは1999年時点だったわけですが、2005年時点で試算を行うとしたらどうなるか、といった部分は興味があるところです。かなり減少しているのでしょうかね。