需要側を考慮したTFP推計(その1)

 「失われた10数年」におけるTFP推計は様々なものがあるが、それらは皆成長会計(新古典派成長理論)の枠組みに沿った形での推計である。以下、他の手法としてNadiri and Schankerman(1981),”Technical Change, Return to Scale and the Productivity Slowdown”,AER.の内容を紹介することにしよう*1

1.モデル
 以下のモデルは収穫一定の仮定に基づく成長会計によるTFP推計を特殊ケースとして含むものである。

(1)供給面からのTFPの定式化
 まず、TFP成長率をDTFP、生産量の変化率をDQ、要素投入の変化率をDF、要素投入量をXi(i=1,・・・n)、生産要素の生産額に占めるシェアをsi(i=1,・・・n)とすると、以下の式が成り立つ。

DTFP=DQ−DF=DQ−ΣsiDXi       (1)

 生産関数をR:R&Dストック、T:技術水準とした上で、Q=G(X、R、T)と定義し、時間について全微分し整理すると以下の式が成り立つ。ここで価格は平均可変費用(AVC)と過去のR&D投資においてかかった準レントθの和(AVC(1+θ))としている。またη=MC(限界費用)/AVC(平均可変費用)から、MC=(ηp/(1+θ))とする。尚、srは生産額に占めるR&D支出額のシェアである。

DQ=Σ[(piXi/Q)/MC]DXi + [(prR/Q)/MC]DR+DT
=((1+θ)/η)×ΣsiDXi+ ((1+θ)/η)×srDR+ DT   (2)

 (2)式を(1)式に代入して整理するとTFP成長率は、(3)式となる。

DTFP=[(1+θ−η)/(1+θ)]×DQ+(η/(1+θ))×DT+sr×DR   (3)

(2)需要関数の導入
 (3)式のDQの需給均衡を考える。市場価格をP、所得をY、人口をNとし、1人あたりの対数需要関数を考え、伸び率の形に定式化すると(4)式が従う。尚、λは定数項、α、βはパラメータである。

DQ=λ+α×DP+β×DY+(1−β)×DN            (4)

 価格決定は、総可変費用関数をCV、CV=H(Px,Q; R,Tc)Pxは要素価格、Tcは費用に対応した技術水準とした上で、伸び率の式に直すと(5)式が従う。さらにCVを伸び率の式に直すと(6)式となる。尚、CV==H(Px,Q; R,Tc)はR、Tcが増加するとCVを下方にシフトさせる。

DP=DCV−DQ+D(1+θ)                       (5)
DCV=(1+θ)ΣsiDPi+η×DQ−((Pr×R)/(CV))−η×DT       (6)

(4)から(6)式を(3)式に代入して整理すると、TFP成長率DTFPは(7)式となる。

DTFP=A[λ+αD(1+θ)]
+Aα(1+θ)ΣsiDPi
+AβDY+A(1−β)DN
    +sr[1−Aα(1+θ)]DR
+[Aη(1−αθ))/(1+θ−η)]×DT       (7)

但し、A=(1+θ−η)/[(1+θ)(1+α(1−η))]。

(7)式が何を示しているのかを考えると、TFP成長率は、?要素価格変化要因(Aα(1+θ)ΣsiDPi)、?需要変化要因(AβDY+A(1−β)DN)、?R&D要因(sr[1−Aα(1+θ)]DR)、?技術水準の変化([(Aη(1−αθ)(1+θ−η))/(1+θ−η)]×DT)の4つの要因に分解できることがわかる。
 尚、需要の価格弾性値αが非弾力的(=0)である場合、要素価格の変化は生産量に影響を与えず、結局TFP成長率にも影響しない*2。価格が限界費用に等しい(p=MC)場合には、η=1+θが成り立つが、この際のTFP成長率は(3)式からDTFP=srDR+DTとなり、要素価格や需要変化がTFPに影響を与えない*3こととなる。

2.実証
 Nadiri and Schankerman(1981)では、(7)式の展開において核となる需要の価格弾性値α、所得弾性値β、限界費用と平均可変費用の比ηを米国製造品、耐久消費財非耐久消費財について推計し、さらに(Pr×R)/(CV)=θとした上でデータを当てはめて、米国製造品、耐久消費財非耐久消費財TFP成長率の変化を上記の4つの要素に分解している*4
 以下の図表をみると、TFP成長率の変化率は減少していることがわかるが、結果から読み取れる点で特徴的なのは要素価格および需要の寄与率である。特に1965年から73年と1973年から78年のTFP成長率の変化率に対する需要変化の寄与率をみると製造業では68.3%、耐久財では63.7%、非耐久財では44.0%となっており、TFP成長率の停滞の半分以上が需要の減少により説明できるとしている。一方でR&Dおよび技術変化のTFPへの寄与は需要減少と比較して小さい。この結果は米国の1970年代のスタグフレーション下での停滞期において、需要面の影響がTFP成長率に大きく影響していたということを示唆する。

図表:TFP成長率の変化と各要素の寄与率

 勿論、テクニカルにはパラメータ推計に際して同次性の問題をいかにクリアするか、生産要素価格やR&Dの定式化の充実といった話もあると思うが、今般の失われた十数年を議論するうえで以上の定式化でTFP推計を行った場合、どのような結果が導かれるのかは興味深いところである*5

*1:mixiで韓リフ先生が議論されていましたが、構造的失業率に引き続いてリフレ派的な潜在成長率推計の試みの一部・・のつもりです(笑)

*2:Aα(1+θ)ΣsiDPi=0

*3:つまり従来型の推計に基づく

*4:詳細についてはNadiri and Schankerman(1981)をご参照

*5:ということで労働生産性についてのBernanke論文を紹介した(その2)上で(その3)に続く・・。いつになるかは不明ですが