伊藤隆敏他「東アジア通貨バスケットの経済分析」、浅子和美・宮川努編「日本経済の構造変化と景気循環」、野口旭編「経済政策形成の研究」、田近栄治・渡辺智之編「アジア投資から見た日本企業の課税」

このところの暑さは勤労意欲を削ぎますね。こんな時には涼しい部屋でのんびり読書でもしたいところですが、今年も切羽詰っている状況でございます。閑話休題。興味深い本が沢山出ています(汗ので趣味と実益を兼ねてメモしつつご紹介。

 まず伊藤先生・小川先生・清水先生による「東アジア通貨バスケットの経済分析」ですが、こちらはRIETIで進められている東アジア通貨バスケットに関する一連の研究成果を纏めたものです。先生方が考える通貨バスケット制で何が生じるのかを考える一助として購入。自分としては、日本への影響やASEAN+3としての通貨バスケット制の維持可能性がどのような形で論証されているのかが興味あるところです。

東アジア通貨バスケットの経済分析

東アジア通貨バスケットの経済分析

 次に浅子先生・宮川先生編集の「日本経済の構造変化と景気循環」です。こちらはいざなぎ超えを達成した日本経済の今般の景気拡張局面が過去の景気拡張局面とはいくつかの点(景気拡張スピードが弱い、資産価格は低迷が続いている、景気回復はデフレ下で進んだ、景気拡張と格差拡大の共存)で異なっているのではないかという問題意識に即して編まれた論文集です。
序章にも解説がありますのでそれを纏めると、大きく三部構成になっています。一部は「景気循環と景気指標」として、景気循環の定義そのものについて検討が加えられています。転換点推測のための月次GDP系列の必要性については日経センターや一部のシンクタンクでも推計の努力がなされていますね。各社が公表する景気予測の制度と公表統計の関係は内閣府でも研究が進められているようですし、景気指数の統計モデルはドクター矢野先生に解説いただければ・・なんて思いますが(笑)。
二部は景気循環自体が構造変化を伴っているのかを景気循環全体の観点や在庫・設備投資・資金循環・企業のバランスシートといった個別の構成要素の観点から検討した分析が行われています。どれも面白そうなのですが、企業・金融機関のバランスシートの悪化といった資金循環の変化を資金循環表で検証している矢嶋・地主・竹田論文が興味深いですね。
三部は、景気循環と格差の関係について分析がなされています。景気の地域別先行性や遅効性の検証、景気の地域格差公共投資の地域間配分の関係性、景気循環労働市場の関係性について検証されています。飯塚論文によれば、雇用調整速度の高まりはマクロデータからはよく言われる指摘ですが、パネルデータ分析を適用すると個別産業の事情(格差)の影響が大きいと指摘しています。その他はR&Dの中間投入を通じたスピルオーバー効果の検証、中小企業の景況感についての分析がなされています。中小企業と大企業との格差が大きいものか小さいものとみるか、今後の設備投資行動は一様と看做すことができるのか否か、といった点は中小企業対策の必要性がクローズアップされている昨今では重要な視点でしょうか。中小企業の景況感の分析はこういった問題意識の道筋を提供してくれそうです。各論文とも実証分析主体で読み応えがありそうです。

日本経済の構造変化と景気循環

日本経済の構造変化と景気循環

三冊目は野口旭編「経済政策形成の研究」です。こちらは既にご案内があるとおりですが、来週には本屋に並びそうですね。経済政策を取り巻く状況を経済学として考察した際にどうなるか、そして過去の経済政策の歴史に照らした場合、我が国はどのような状況であり何が言えるのか、対立する経済学の思想の中にある「共通の知見」を巡っての論考、といった三部立てですが、こちらもじっくり読みたいところです。個人的には(これまで論説が耳になじんでいない)浅田先生・松尾先生の論説が特に楽しみですかね。

書籍紹介URL(http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=382)


最後の四冊目ですが、田近栄治・渡辺智之編「アジア投資からみた日本企業の課税」です。この本の特徴は税制と日本企業の海外展開との関係について、海外への所得移転が進む日本企業の現況を踏まえつつ、アジアの視点から分析しているところです。少し読みましたが、制度に弱い自分にとってはアジア諸国の移転価格課税の動向や近年変化が著しい中国の企業課税、日本企業の配当政策と税制を扱った章が興味深いですね。

アジア投資からみた日本企業の課税

アジア投資からみた日本企業の課税