テイラー・ルールと米国住宅市場

 9月1日のエントリ*1も興味深いが、Econbrowser*2でHamilton教授がテイラー・ルールと昨今のサブプライム市場との関係についてのTaylor教授の議論(Taylor(2007))を紹介している。以下、簡単に議論を紹介することにしたい*3

 テイラー・ルールとは、本ブログ*4でも紹介したとおり、中央銀行が操作する政策金利GDPギャップと目標とするインフレ率からの乖離との二つの要因により関連づけられているとするものである。実質GDPが潜在GDPを上回れば、もしくは物価上昇率が目標とするインフレ率を上回れば、中央銀行は景気を冷やすために政策金利を上げる。逆であれば政策金利を下げるというわけだ。
 Clarida,Gari and Gartler(2000)は、80年代半ば以降の米国GDPボラティリティの低下はFedがテイラー・ルールに従うような政策運営を行ったためである。つまり、経済安定化のためにインフレ率の上昇以上に名目利子率を上昇させることができたためである*5と論じている。

 以上のように米国の金融政策の有効性はテイラー・ルールに基づいて解釈することが可能だが、03年から05年の期間についてはテイラー・ルールによって示唆されている最適金利を下回る水準で政策金利が設定されてきたのではないかという懸念がTaylor教授によりなされている。
Taylor教授はa)FFレートに従った場合の住宅着工件数とb)テイラー・ルールから導かれるFFレートに従った場合の住宅着工件数をモデルに基づいて計測した上で、実際に観察された住宅着工件数(実線部分)と比較している。図中の上方の点線部がa)の場合、下方の点線部がb)の場合だが、住宅着工件数の変化幅はテイラールールに基づく政策金利を適用した場合、小さくなる。


(資料)Taylor(2007)

 以上からは、テイラー・ルールが示唆する政策金利にFFレートが従っていれば、住宅市場のboomとbustは軽減されたのではないか?という示唆が得られる。
 EconbrowserでHamilton教授がふれているとおり、この示唆は様々な議論を呼び起こすだろう。例えば、政策金利金利の期間構造との絡みでどのように設定すればよいのかという議論(政策金利の最適なパスそのものについての議論)、サブプライム問題は適切な格付けがなされなかった等の金融制度の歪みに起因するものであり、その手当てが不十分だったという点こそが問題である、政策金利云々が問題ではないという議論、等が頭に浮かぶ。過去の金融政策の対応策としては決着が付いた感もあるが、バブルが弾けてから早急に対処すべきか(Fedビュー)とバブルの目を事前に早めに摘み取るべき(BISビュー)という議論にも関連するかもしれない。御読みの方はどのようにお考えでしょうか?

*1:http://www.econbrowser.com/archives/2007/09/comments_on_hou.html

*2:http://www.econbrowser.com/archives/2007/09/the_taylor_rule.html

*3:もしかするとEconbrowserを直接読まれた方が手っ取り早いという噂もありますが・・・orz

*4:http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20070822

*5:この点は以前政策金利の感応度としてエントリした。http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20060529/p1を参照のこと。付言すると、我が国の場合は政策金利の感応度は90年代において大きく低下し、有意に1を下回る。又標準誤差も70年代、80年代と比較して高い。