Bernanke and Gertler(1999)

 そういえばサーベイの欄を立てていたものの、殆どアップしてませんでしたorz..有名な論文をコツコツ読みつつ、要約と捕捉を作っていこうかと思います。ということでまずは某所で作成した要約をちょこっと変えたものを掲載。誤読等ございましたら是非ご指摘ください。

Bernanke, Ben, and Mark Gertler, “ Monetary Policy and Asset Price Volatility,” Economic Review, Federal Reserve Bank of Kansas City, Fourth Quarter, 1999, pp. 17-51.

1.概要
 過去20年間、各国の主要中央銀行はインフレをコントロールすることにほぼ成功した。政策担当者にとって頭が痛い問題は不安定な金融市場、例えば資産価格のボラティリティが明らかに拡大していることである。Borio, Kennedy and Prowse(1994)等の研究は1980年代の先進諸国における株価と不動産価格の循環(boom-bust cycles)を分析している。米国、日本、英国、オランダ、スウェーデンフィンランドといった各国の多くでは、資産価格の停滞は実態経済活動の停滞をもたらしたことが確認される。例えば、不動産価格の低下を伴った米国の90年の不況(およびそこからの緩やかな脱却)は、銀行が有する資産や借り手企業のバランスシートを毀損させる。最近では、東アジアやラテンアメリカにおける通貨危機は実態経済の停滞をもたらしている。以上の経験を念頭に置くと、米国資産価格のここ数年の上昇、および短期間での不動産価格の上昇を不吉な発展とみる識者もいる。
 本分析では、中央銀行が金融政策の全体的な枠組みの中で資産価格のボラティリティにいかに対処するかという問いに言及する。明らかなことではあるが、金融政策がそれ自体で資産価格の変化がもたらす負の影響を扱うに足るツールではない。柔軟な法律・会計システム、銀行や企業のリスクを制限する仕組み、経済のファンダメンタルズの信認を手助けするプルーデント政策は金融の不安定化を抑える働きをもたらす重要な要素である。しかし資産価格の崩壊は、金融政策が反応的でない、もしくはデフレの圧力を積極的に除去しない場合についてのみ経済に持続的なダメージもたらすというのが過去からの教訓である。この観察事実は金融政策に焦点を当てることを正当化する。
 本分析の主要議論は単純である。我々の見方は、短期の金融政策の運営という文脈では中央銀行は価格の安定と金融市場の安定が互いに補完的で整合的な目標であると見ることができ、統一した政策枠組みの中で目標の追求をはかることが可能であるということだ。特に、双方の目標を満たす最善の政策枠組みは、米国で潜在的に行われ、多くの諸国でより制度化された形で採用されている、柔軟なインフレターゲティング政策を適用するということだ。
 インフレターゲティングのアプローチは、中央銀行がインフレもしくはデフレ圧力を前向きに解消するという目的で積極的な金融政策を行う、というものである。重要な点は、この政策は資産価格そのものの水準に反応して行うというものではない点である。資産価格を安定化させようと試みることは様々な理由から問題が多いが、少なくとも資産価格変化がファンダメンタルズの要因により生じたものか否かを確証をもって把握することは困難である。資産価格変化が引き起こすインフレ・デフレ圧力に焦点をあてることで、中央銀行は資産価格の変化がもたらす有害な影響に反応することができる。さらにインフレ・デフレ圧力に着目することは、バブルがはじけた際に容易に生じうる混乱を抑えることにもつながる。最後に、インフレターゲティングは安定的なマクロ経済環境をもたらすとともに、資産価格が上昇する際には金利を上昇させ、資産価格が下落する際には金利を下落させるため、バブルがはじけた直後の金融危機の度合いを軽減することが可能となる。

2.帰結とインプリケーション
 分析の結果、大規模なバブルの崩壊は、総需要および経済活動に負の影響をもたらすこと、さらに適切な政策対応がなされない場合には経済の収縮は甚大となることが明らかとなった。作成したモデルによれば、バブルの崩壊はバランスシートを毀損させ、さらなる資産価格の停滞や債権市場のスプレッドを拡大させる効果をもたらす。
 本分析の主要な結論は、弾力的なインフレターゲットの実施がマクロ経済および金融市場の安定をもたらすために効果的な枠組みである、ということである。
 本分析が暗に対象としていたのは米国や日本といった先進国であった。本分析で対象としていない主要な論点の一つは、世界中で生じている金融危機は途上国でかつ開かれた国(small open economies)において生じているという点である。開放経済体系に拡張し、通貨に対する投機的なアタックや銀行の取り付けといった金融危機の他の側面を考慮に入れるためになすべき研究は多い。以上の拡張を考慮した場合に予想される結論は、近年金融危機に見舞われた国の多くは固定レートを採用しているが、これは金融市場が成熟していない環境下においては望ましくない、というものである。
 為替レートをペッグする際に鍵となる問題点は、為替レートを維持するために必要な金利引き上げが、金融危機を緩和させるために必要な金利引き下げという処方箋と矛盾するというものである。加えて、固定為替レートというレジームは中央銀行が有する裁量を制限してしまう。途上国でかつ開かれた国(small open economies)がなすべきことは、金融市場の規制緩和財政再建策とともに、弾力的なインフレターゲティング政策を行うことである。
 本分析で対象としていない論点としてさらに挙げるとすれば、それはグリーンスパンが行っているような暗黙裡なインフレターゲティング政策と、透明性を有しかつ市場との対話を含むという形でインフレターゲティング政策を明確に打ち出していくことの違いに関するものである。米国の金融政策は後者の方向に移るべきである。その理由は2つあるが、目標の明確化は金融政策の継続性を保証することにつながり、透明度を高めることはフォワードルッキングな政策の効果を高めることに繋がるからである。