諸君12月号の論説から

 諸君12月号の高橋論説(高橋洋一構造改革六年半の舞台裏をすべて語ろう」)を読む。個人的には「歌って踊れるエコノミストになろう」*1という点に共感(笑)だが、竹中氏・バーナンキ安倍氏・小泉氏といった方々とのつながりや郵政民営化や政策金融改革、公務員改革についても興味深いお話が続きますね。面白いです。以下、印象的な部分を抜粋。非常に明確な主張ですね。

 デフレ解消の金融政策がうまくできなくて、日本が異常なデフレになったと言ったんです。デフレのために日本の物価上昇率OECDでビリ。名目成長率もビリで、ビリが十年くらい続いている。名目成長率が低いのは物価上昇率が低すぎるからなんですが、物価上昇率が低すぎると経済にすごいマイナスになることはもう定説なんですね。1〜2%がいいと言われているんです。ところが日本はゼロとかマイナスでしょう。これは日銀の金融政策のせいなんですよ。

(中略)

 最先端といっても”世界の常識”で、日本だけがちょっとアブノーマル。バーナンキなどがでていた大学内の勉強会で、結論はいつも「BOJ(日銀)はステューピッド」でした。

(中略)

 中央銀行の独立性といった場合、「目標の独立性」と「手段の独立性」という二つの意味が考えられますけれど、バーナンキなど世界の標準的な考え方では、中央銀行金利をうごかす「手段の独立性」はあっても、物価の上昇率をどの程度に設定するかという「目標の独立性」は認められていないんです。目標はあくまでも政府または政府と中央銀行が決める。しかし日本では違う。というか、政府が決めようとすると日銀は猛烈に反対するが、これという目標を日銀も対外的にははっきりいわないで、曖昧模糊にする。目標がはっきりしていないから、日銀の失敗がバレないというのが、日本の仕組みです。これは変だというのが世界の定説。

(中略)

 財務省財務省が後押しする与謝野さんは「名目成長率に頼るのは悪魔的」と批判してきた。私たちが言っているのは、世界標準の4〜5%の名目成長率を目標にすべきだという話だから、それで「悪魔的」と言うなら世界は悪魔だらけになって大変ですよ(笑)*2

 以上の論説を頭に入れつつ、諸君12月号の松原隆一郎東谷暁吉崎達彦の三氏による「経済オピニオン記事 あてにする馬鹿、読まぬバカ」を読むとさらに興味深い(笑)。僕は随分前から社会人の常識たる日経新聞を購読することを止めているのですが(笑)、この前声高に主張した話をいきなり何も無かったかのように撤回するという路線には同意。後は競馬欄が偏りが無く充実しているという議論も同意です*3

 但し、感受性の欠如?云々の話から政策提言したがるエコノミストの大量登場の話へと進み、奇妙なイデオロギーとして「インフレ目標論」と繋がるのはいただけないですね。どこが「奇妙なイデオロギー」なんでしょうか?

 吉崎氏の発言として以下を引用。

 インフレ目標論者(リフレ派)の主張は「景気が悪いのは物価が下落しているためである。一定の物価上昇率を目標設定し、日銀にその達成を義務付ければ景気は回復する。日銀は物価を上げるために通貨発行量を大幅に増やし、総裁は「インフレ宣言」をして消費者心理を誘導せよ」というのが骨子です。しかし、インフレ目標論はいくつもの仮説を前提にして成立しており、現実に適用できるか疑問視する声が多くあります。また、「インフレ率を一定レベルに調整するなど不可能でハイパーインフレに陥る危険を常に孕んでいる」との批判も多く、エコノミストの間では非常に特殊な理論と位置づけられています。

 まず「デフレ」ですが、これは内閣府及び各国で採用している定義でも明らかですが物価が継続して低下する状況を指しているため、景気循環とは独立して考える話です。勿論、景気循環と関係がないというのではなく、景気が回復している現在においても(マイルドなインフレが存在しているのならば)達成可能な経済状況を達成できていないという意味でデフレは問題です。これは高橋論説の引用箇所(物価上昇率が低すぎると経済にすごいマイナスになる云々)に対応する話ですね。
 又、日銀がマイルドなインフレ率の達成を宣言するにあたっては、それを実現するための政策を行っていくわけですので、単に宣言して消費者心理を誘導するという意味合いではありません。先進国各国でもインフレ目標政策はなされているわけですが、インフレ目標政策を採用したことでハイパーインフレを引き起こした国はありません。インフレ目標政策を採用している先進国では常にハイパーインフレの危険におびえているのでしょうか?インフレ目標政策を行っている先進国のインフレ率が低位で安定しているわけですが・・。
 さらに言うと、ここで言われているインフレ目標政策を主張するリフレ派は世界でもあまた存在するわけですが、非常に特殊な理論と位置づけられているんでしょうか??「我が国のエコノミスト」という非常に狭い世界の話なんでしょうか?仮にそうだとしても変な話ですが。

 東谷氏の発言として以下を引用。

日銀総裁の言うことなら、国民はみなすべて信じる」という前提が成り立たなくてはなりません。もともと今の経済学は心理的因子を極力排除してモデルを構築するのが普通であるのに、インフレ目標論の場合だけ、なぜか心理的因子を異様に重要なものとしてカウントしてしまう。

 少し正確ではないかもしれませんが、寧ろ「日銀総裁の言うことなら、国民はみなすべて信じる」という前提を成り立たせるために様々な政策を行っていくというのがリフレ派の主張でしょう。心理的因子を極力排除してモデルを構築するのが普通とありますが、日銀もしばしば主張している「フォワードルッキングな金融政策」、合理的期待を軸としたマクロ経済学の流れ、といった中では心理的要因は考慮されていないのでしょうか?寧ろ、期待という心理的要因をいかに取り込むのかという方向に向かっているのがマクロ経済学の流れではないんでしょうか。
 相変わらずの現状ですが、こういったトンデモ論説がまかり通ってしまうということは悲しい事態ですね。・・・標題の話(あてにする馬鹿)を雄弁に物語っているというオチだったのか(笑)。

*1:実はこれを目指している方を僕は少なくとも二人知っています(爆)

*2:http://www.murc.jp/politics/search_now/2007/10/sn_071022.htmlもご参照。

*3:スポーツ紙がナリタブライアン万歳を叫ぶ中、一貫して冷静な分析をしていたのを思い出しました。