嶋中雄二「利下げを示唆するハーバード景気指数」

 私が現在所属する会社を知った契機は嶋中さんの論説を通じてでした(汗という前置きはさておき、2月の政策決定会合で0.25%の利下げがあると主張されている嶋中さんの「ハーバード景気指数」を用いた論説です。景気循環統計を駆使した解説が嶋中さんの真骨頂だと思いますが、この論説で提示されている日米のハーバード景気指数が非常に興味深いものがあります。

 詳細はこちらを(http://www.sc.mufg.jp/inv_info/business_cycle/sn_report/pdf/snb20080117.pdf)御読みいただくとして、ハーバード景気指数とは、景気循環が各種統計指標にタイムラグを通じつつ反映していくという規則性を利用したものです。具体的には、指標としてA(投機を示すもの=株価等)、B(景気を示すもの=生産等)、C(金融を示すもの=短期金利等)の三種類を選び、これらの変化から景気循環がどの局面にあるのかをみる、というものです。嶋中論説に示されている命題*1は、以下の5点となります。

1.A線はB線に対して数ヶ月先行して動く。
2.B線はC線に対して数ヶ月先行して動く。
3.C線が下降基調にあるとき、A線が上向き始めれば、まもなくB線も底入れして上昇し、景気は回復する。
4.C線が上昇基調にあるとき、A線が下向きはじめれば、B線も頭打ちになり、景気は後退する。
5.A線の方向性(上向くか否か)は、C線の状態から推測できる。
※つまり曲線A→B→C、曲線C→A→Bという形でタイムラグを伴った連動関係にある。

 嶋中さんのレポートではA:日経平均株価225種、B:鉱工業生産、C:有担保コールレートの前年比が日本について用いられており、米国については、S&P500総合株価指数、鉱工業生産、FFレートの前年比が採用されています。
 日本の場合はA線は下落、B線は横ばい、C線は上昇している(プラスの伸びなので)ことがわかります。つまり、命題の4番目に照らし合わせると現在の状況は、利上げ基調が投機的な側面を悪化させている段階(C線→A線)という状況であり、一定のタイムラグを通じてBのマイナスをもたらす可能性が高いということです。引用先のPDFファイルにある図表からは鉱工業生産の伸びはプラスであるものの軟調化していますのでマイナスに振れる可能性が高いのでしょう。実際図からはその確度が高いように見受けられます。本格的な景気悪化を回避するには、Cを下げ(つまり利下げ)、株価を上げ、生産(実態経済)を回復させるしか手がないという風にも読めます。まさにリフレ政策・リフレ過程そのものです。
 米国の場合はどうでしょうか。A及びBの伸びはプラスであるものの、伸び率はマイナス方向に近づいています。一方米国では利下げを行っているためFFレートの伸びはマイナスに転じています。そしてその傾向はさらに加速していることは周知のとおりです。とすると、C線の下落の拡大がA線(株価)の上昇を招来するのでしょう。そうすればB線も底入れして上昇し景気は回復するのではないかということになります。
 ハーバード景気指数が教えてくれるのは、わが国の場合は利下げを行わないと危険な領域に陥る公算が高いということ、米国が景気回復する段階を見極める判断材料としては株価を見るということなのでしょう。
 

 

*1:何だかこう書くと酒田五法みたいですね(笑)