07年12月CPIの結果から

1.消費者物価指数の動向
本日、消費者物価指数の07年12月値が公表された。公表結果はご案内のとおりだが、総合指数(前月比0.2%上昇、前年同月比0.7%上昇)、コアCPI(前月比0.3%上昇、前年同月比0.8%上昇)は上昇しており、コアコアCPI(前月比と同様、前年同月比は0.1%下落)は横ばい及びわずかに下落という形となっている。ちなみに、推計にかかる上方バイアスのうち基準年の乖離に伴うものを修正したコアCPIの対前年同月比は0.6%上昇、コアコアCPIの対前年同月比は0.3%下落であり、わずかながらマイルドな数値となっている。
品目別にみていくと、原材料価格の高騰をうけて、関連する「交通・通信」、「光熱・水道」、「食料」といった品目がプラスの寄与となっており、逆に「家具・家事製品」、「被服及び履物」、「保健医療」といった品目はマイナスの寄与である。
 以上の結果から考えると、3ヶ月連続でCPIが上昇しているものの、それは原材料価格の高騰に直結している品目の伸びが中心であり、他財の価格上昇を含めた形になっておらず、かつ1%未満と計測誤差の範疇であることがわかる。
 大田大臣は、本日のCPIの結果を受けて、デフレ脱却=インフレと判断するには時期尚早とコメントしているが、正当な判断だろう。デフレ脱却基準として、コアコアCPI(内閣府独自試算)、GDPデフレータ需給ギャップ、ユニットレーバーコストの4つの基準を内閣府は掲げている。今回の総務省の結果を受けて内閣府が試算したコアコアCPIは対前年同月比0.2%上昇となったとのことだが、残りの指標は弱含みで推移していると考えられる。内閣府の認識と日銀の認識とをきちんとすり合わせることが必要である。

2.「3ヶ月連続上昇」で思い出す事実
 さて、今回のCPIの結果は「3ヶ月連続」で対前年同月比プラスというものだったわけだ。東京都区部の08年1月値の値はプラスとなっており、来月公表される全国ベースのコアCPIも引き続き上昇するとみるべきだろう。しかしこの消費者物価指数の上昇は一過性のものである可能性が高い。
理由の一つは今般の物価上昇の原因でもある原油価格が1月と同程度の伸びで今後上昇を示すとは考えづらいという点である*1。資源価格の高騰は企業の経営状況を悪化させるが、長期になればなるほど企業側も省エネや代替エネルギーの活用といった方策を講じる余地が高まるだろう。米国経済の軟調化に伴う実需の低下や原油価格の先物カーブ(WTI)は今後原油価格が下落傾向にあることを告げている。しばらく同様の水準を維持するとしても対前年同月比でみた価格上昇は月を追うごとに剥落していくと考えられる。
理由の二つ目は、先日エントリしたように企業経営、家計所得、雇用といった状況を鑑みるに、原材料価格上昇分をカバーしうるだけの家計所得の上昇や消費の増加が生じにくいという点である。結局のところ、消費者物価指数の上昇幅は大きくは無く、主要品目全般において価格上昇が観察されるような形にはならないと見るべきではないだろうか。
 「3ヶ月連続」で消費者物価指数が上昇したという事実で思い出すのは、06年7月におけるゼロ金利解除の際の消費者物価指数の動きである。あの当時も原油価格の上昇により消費者物価指数は前年同期比で06年1月以降上昇したが、結局基準年次を変えてみると1月及び4月の値はマイナスであることがわかり、物価の伸びは力強いものではなかった。さらに07年に入ると原油価格の上昇効果は完全に剥落し、他の要因も相まって消費者物価指数はマイナスに陥ったのは記憶に新しい。「物価が上昇するのか否か」は目先の原材料価格の高騰といった個別価格の動向をみるのではなく、政府が主張するとおり、コアコアCPI、GDPデフレータ需給ギャップ、ユニットレイバーコストが安定的に上昇するのか否かで判断すべきである。目先の個別財の高騰を捉えて必要以上に原材料価格高騰に伴う家計不安を煽る行為や、過度な「インフレ期待」を醸成する行為は厳に慎むべきだ。