上野泰也「デフレは終わらない」(追記あり)

 「チーズの値段から未来が見える」に引き続き、みずほ証券の上野さんが書籍を出される模様です。4月21日。
 こちらは「チーズの値段〜」と比較すると本格的な書籍なのかな?と期待&予測。いずれにせよ購入してみたいところです。何となくタイトルから言わんとしている所は分かるような気がしますが、さてどうなのでしょうか(笑。

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(追記:4/18)
 4月21日発売とのネット情報でしたが、偶々寄った本屋で発売されてましたので即買い→空き時間に読了。
 平易な語り口なのですが、私にとって至極納得な論調が貫かれている書籍です。こういった真っ当な視点に基づく経済本がもっと広く世に出てくれることを期待したいですね。
 先日刊行された「チーズ・・」が様々な情報からいかに自らの視点を得る(格闘する)か、という本だとすると、本書は、著者の上野さんの経済への見方を主張するものだと言えるでしょう。印象的なポイントを(最終章を除き)纏めてみると以下のとおりです。興味をお持ちの方々は是非書店にて手にとられることをお勧めします。

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1.なぜ経済を正しく見る目が必要なのか

  • 経済は国民一人一人が当事者。先行きが見えにくい世の中だからこそ、経済知識で武装した上で伝聞情報を自らの視点に照らし合わせつつ、着実に進むほうが良い結果が得られるだろう。

2.デフレは終わらない

  • 現在言われているインフレ圧力の特徴を裏返せば、「国内発ではなく」、「食品・エネルギー以外の部分には輸入を通じた価格上昇圧力がほとんど及んでおらず」、「国内の需給環境に応じた価格形成にはデフレ色が濃い」ということだ。
  • 需要面からの構造的なデフレ要因(人口減少、少子高齢化規制緩和)がサービス分野の硬直的な価格を破壊する流れは今後も続く。
  • 海外からの原材料コスト上昇圧力は右肩上がり一辺倒にはならないだろう。コストプッシュ型価格上昇圧力は自然と薄まらざるをえない。

3.経済状況について

  • 政府判断としての「戦後最長の景気拡大」は製造業の生産が拡大していることが主要因。個人の景況感は収入の動向が鍵。この二つの齟齬が実感のなさをもたらす。
  • 雇用の売り手市場が続いたとしても、正社員以外の比率が上昇する局面においては、賃金は上がらない。賃金上昇が生じる前に企業収益が伸び悩み、さらに減少することで賃金上昇の見込みが絶たれる可能性が高い。
  • 利上げを進める中で長期金利(10年物国債利回り)は上昇せず横ばいで2%ラインを超えられない。これは将来の名目GDP成長率が2%未満と判断されているため。
  • 財政悪化=国債供給急増→国債価格下落→金利上昇という「悪い金利上昇リスク」は名目GDP伸び悩みの元で財政再建が進んでいることから現在は後退している。格付け改善もその事実を補強。
  • 政策金利の影響を強く受ける中長期ゾーンの金利と長期(10年物国債)、超長期(20年・30年等々)の金利では金利形成のされ方が異なる。中長期ゾーンの金利政策金利の引き上げにより上昇しても、利上げが景気・物価を押し下げると市場が判断すれば長期・超長期ゾーンの金利は余り上がらず、逆に低下する可能性(逆イールド)もある。
  • 日銀の利上げ路線は1.25%ぐらいまでがせいぜいだろう。実際にはそれ以下の水準で景気後退のサインが明確化するのでそこまで上げることは出来ない。利上げ→景気後退の明確化となった場合には長期金利は下がり易くなる。
  • ユーロ高は長続きしまい。米国の政策金利引き下げに伴うドル安・ユーロ高の基調は限界に近づきつつあり。外貨準備に占めるユーロ比率の上昇が喧伝されるが、中長期的な需給材料としてはあり得るが、短期的な相場への影響は限定的(巨額なドル準備を有する国々が急激に資産構造を変えれば、それは自国にとって不利になる)。
  • 現状の長期金利の動向は下落の時期から「横ばいの時期」に移行しつつある。「長期金利が低下することで国債増加が進んでも利払い費は横ばいで済んだ」が今後はそうはならないだろう。「長期金利1%云々・・」の試算に騒ぐのではなく警告として受け止めるべきだ。

4.金融政策について

  • 日銀は「将来のインフレ加速」を警戒(フォワードルッキング)して利上げすべき局面にない。それはフォワードルッキングの前提条件たる「予測」が常に上ぶれており、物価の実力を過大評価していることからも明らか。ユニットレイバーコストもマイナスが続き、CPIコアはプラス1.0%程度となっているが、需要増加に裏打ちされた物価上昇圧力とは言いがたい。
  • 「バブルつぶしの利上げ」は過去に失敗している。「金利所得」増加目的の利上げなら1%どころの利上げでは足りないだろう。さらに利上げをすれば経済全体にダメージが生じることは明らか。「のりしろ」のために利上げするのは実態経済を無視した自己中心的主張。
  • 目標とする金利水準が明確でないかぎり「金利正常化路線」には意味がない。根拠を持たせるには物価について明確な目標が必要だ。
  • 「日銀の独立性」を考える際には、「日銀と政府の適切な間合い」を固めていくことが必要だ。
  • 日銀の金融政策決定は日銀法上「合議制」だが、現実的にはフィクションに近い。しかし、それは中央銀行の政策決定が「合議制でない」ことを意味しておらず、英中銀のような「合議制」の中央銀行もある。

(※)副題が刊行されているものと違っておりましたので削除しました。ご容赦を。