クルーグマン教授会見「大不況克服へ巨額財政出動せよ」(朝日新聞)を読む。


 本日付けの朝日新聞クルーグマン教授が記者会見を行った際の記事が報告されている。既にご覧の方も多いだろうが、まず指摘すべきは、なぜかは分からないが、「大不況克服へ巨額財政出動せよ」というタイトルは記者会見の内容からは不当であるという点だ。「十分な金融緩和を行った現状を鑑みて、大不況克服へ巨額財政出動せよ」というのが正確なタイトルだろう。
 クルーグマン教授は我々が世界的な大不況に突入しつつあるのは明らかだから多くの対策が必要であると述べる。米国失業率は8%〜9%程度まで悪化すると予想されるため、構造的・摩擦的失業率(=NAIRU)である5%の失業率まで、オークン法則に基づくGDPギャップの7%の水準を満たすように財政支出(具体的には考え付くかぎりのこと)をすべきと語る。
 さて、重要な点だがクルーグマン教授がこのような巨額の財政支出を主張する背景には、既にFRBによる通常の金融緩和策(利下げ)は限界に達しているという認識がある。確かに、FFレートはゼロ近傍となり、事実上ゼロ金利政策を行っているに等しい。我が国の政策金利(0.3%)と比較しても、マーケットで成立しているFFレートは0.29%まで下がる場合もあり、利下げによる金融緩和は限界に来ているのは事実である。
 巨額の財政支出を行う場合には、やるのであれば後先考えずに迅速に支出策を講じることが必要だ。我が国の90年代のように、一時的な所得減税を将来の消費税増税とセットで行ったりすることは論外である。一時的とわざわざ断った上で減税策・財政支出を行うことは折角の財政支出を無駄にしかねない。膨張する財政赤字が問題になるのならば、中央銀行との協力の上でボンドコンバージョンを行えばよい。問題は危機に際して断固として政府・FRBが立ち向かう用意があり、そのための行動を惜しまず迅速に行うかどうかだけである。更にいえば、ゼロ金利に陥ったとしても中央銀行量的緩和も可能である。量的緩和策を行うオプションも豊富にある。その際に重要なのは期待に働きかける政策を行うということだろう。世界経済の動向の鍵が米国経済にあるのならば、米国経済の痛みを和らげるように各国が(自国経済の動向・政策的対応を踏まえつつ)政策協力をするのが真の世界経済の協力である。我が国はこの意味で米国経済を支えるために断固として協力を行うべきである。
 クルーグマン教授はご丁寧にも日本について助言している。その助言は、『「景気を刺激せよ、刺激せよ。ゼロ金利に戻れ」これに尽きる。』というものであるが、当然の助言である。我が国は90年代以降ずっとデフレという異常事態に陥り、現在も異常事態は続いている。産経新聞の報道*1では、日本に財政・金融政策打つ手なしとのことである。自らをリフレ派などというつもりはない*2が、異常な経済状態では政府当局・中央銀行に断固たる勇気があるかぎりいくらでも政策対応は可能である。問題は政策担当者が「異常な経済状態」を真に異常だと捉えていないことにあるのではないのだろうか。二期連続でマイナス成長に陥ったということで「今後も経済の悪化が続く」とのたまう経済財政大臣は何を考えているのだろう。そんなコメントはどこかのエコノミストにでも任せておけばよい話である。経済財政大臣に必要なのは景気悪化が確実視されるのであれば、その悪化を食い止めるための政策を迅速に実行に移すことに尽きるのである。

(追記 11/19)
 ちょっと仕事が立て込んでいるのと寝不足が限界に来ていまして頭が上手く働いていませんが(涙、色々とコメント等どうもありがとうございます。私はクルーグマンの論説を紹介しているだけ(でもないか)ですのでご容赦を。
 追々指摘されている点には私が考えていることをエントリしたいと思っています。いつになるかわかりませんが。

*1:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/196179/

*2:不況が深刻になりそうなら迅速に予想される不況に応じたマクロ経済政策を適用するのは普通の経済認識だと思うので、変にリフレ派などというレッテル貼りをされるのも奇妙・迷惑な話・・ではなく名誉な話ですね(笑