高橋洋一『この金融政策が日本経済を救う』、中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』

 年末なのに色々本が出ますが、高橋さんの新刊本は金融政策について、現下の経済状況の認識とあわせてわかりやすく書かれており非常に勉強になります。外出の空き時間に一気に読了しましたが、「高校生にもわかる・・」の名のとおり、非常にわかりやすく的確にポイントが指摘されています。特に政治家の皆さんに是非読んでいただきたい本です。
 現下の金融政策の問題点は、当然ながら日銀執行部の思想・考え方にその問題点があるわけですが、そういった執行部を了承したのは政治の責任です。それを支えているのが、金融政策無効論をその核とした「日銀金融理論」、それに毒されている一部エコノミスト有識者というわけでしょう。当然ながら「日銀金融理論」などグローバルな視点でみれば誰も念頭に置いていないのは明白です。
 日銀法により日銀執行部を全て交代させることは不可能なわけですので次善策に留まるわけですが、日銀の政策認識と政府の認識とをすり合わせるという努力は必要でしょう。本書にも日銀総裁人事の決定プロセスについて書かれていますが、ねじれ国会を前提とすると、国会に小委員会を設置して、日銀の使命である物価安定について具体的な数値目標とその達成までの期間を候補者に聞くという案が記載されています。
 個人的には、国会に小委員会を設置して、白川総裁を参考人として定期的に招聘し、物価安定の目標とその達成までの期間を現下の経済状況の認識とセットで質問するといった機会がもてれば良いのになぁなどと感じました。与党がモゴモゴしているときになぜ野党が対案としての金融政策をきちんと主張しないのか、非常に残念です。そして政府と日銀がまったく別の動きをしているように見えてしまうのは不幸です。表には出てこないのかもしれませんが、政府と日銀は密接に意見交換をし政策について相談をしたりしているのでしょうか?円高・株高のダブルパンチが大きく影響しており、その二つが問題であるのなら、まずなすべきは金融政策でしょう。

 もう一冊の中谷さんの書籍は未見ですが、どのような整理をされているのか、どのように考えが変わっていったのかという点が興味深いですね。注意すべきは米国の経済学を学んできたら皆市場主義者になるかというとそうではないという点です。それは同年代で留学された方でも思想を別にされている方も居るわけですし、そもそも経済学自体が市場を無条件に礼賛しているわけではないことも明白でしょう。
 完全競争という理想状態で約束される市場メカニズムの望ましい特徴が完全競争という理想状態なくして成立するなどと考えるのは所詮夢物語です。問題は理論的帰結としての市場メカニズムの良さを念頭に置きながら、限界を考慮の上で何をしていくかという視点でしょう。そもそも一方の極から他方の極に向くのではないバランスの良い見方こそが現在求められていると思いますし。あえて偉そうな口を叩けば、主張を変えるというのは結構な話ですが、残念ながら気づくのが遅すぎると思うのです。マクロ経済政策、(何をするかを具体化した上での)構造改革はどちらが良くてどちらが駄目というのではなくて両方必要で、問題は政策目的(短期の景気悪化を治癒するのか、潜在成長率に影響を与えるのか、再分配機能を促進するのか・・等々)に応じてこれらの政策オプションをどう組み合わせていくかということなのでしょう。
 私はこの国の長期停滞は、結局は政策当局の失敗が成長率の悪化を生み、それが中長期の潜在成長率を押し下げ、経済構造の変化を伴いながらさらに悪循環していったのではないかと考えていますが、長期停滞下での経済政策の経験・我が国の立ち位置といったものをきちんと再認識するのが現在の混迷への解の近道なのではとも思いますね。このあたりの話は多分来年あたりに誰かが纏めてくれるでしょう(笑。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

※かなり追記しました。申し訳ありません。(12/16 20:15)