藤井眞理子「金融革新と市場危機」、福岡正夫・鈴木淑夫編「危機の日本経済」

 最近刊行された藤井先生の本。ブラックマンデー、LCTM、そして日本のバブル崩壊とを対比しつつ、現在の金融危機について分かりやすく説明されています。さらさらと読みやすい本ですね。本書にも記載されているのですが、金融は経済システムの一部であるため、マクロ経済との関係や資本移動を無視して語ることは難しいと思います。あえて問題の対象を限定された上で、金融について力点を置きながら論じた本ですが、その点が長所でもあり短所でもあるのかなぁと思う次第です。

金融革新と市場危機

金融革新と市場危機

 二冊目は「危機の日本経済」。2009年の2月に行った討論会の模様を加筆・修正の上で書籍化したというものです。福岡・鈴木両先生方に加えて、河合正弘、平野英治、菅野雅明、深尾光洋、の諸先生方も討論されているので、そちらも楽しみです。内容はこちらから。

危機の日本経済

危機の日本経済

 鈴木淑夫氏については、最近、主要な論文を集めた『鈴木淑夫集』を購入したのですが、70年代のグレートインフレーションに関する論説、それにまつわる経済政策論争の整理、氏の日本経済論といった論文は非常に興味深く読みました。この本は「現代エコノミスト選集 日本経済の50年」の一シリーズとして刊行されており、金森久雄、竹内宏、宮崎勇、篠原三代平といった錚々たるエコノミストの論説が収録されています。現代のエコノミストの中でこれらの方々と比肩するような著作を物すことが出来るエコノミストが果たして何人いるのだろうか・・などと僭越ながら思うところです。個人的に惹かれた『鈴木淑夫集』の最後に書かれた以下の文章を引用してみます。

ここに収めた論文は、そのような努力の軌跡である。そこでは過去の日本経済を分析の対象としているが、その問題意識はそのまま現代の課題につながっている。読者は現代の課題がいま突然出てきたものではなく、以前から指摘され、論じられていたことに気づかれるであろう。それにもかかわらず、私を含め、学者やエコノミストの影響力が弱いためか、あるいは政策立案者の感応度・実行力が弱いためか、いまだに実現されていないことが多いことにも、気づかれるであろう。それを知ってこれからの若い研究者たちが、私の所論を含め、過去の議論のどこが弱いために説得力をもちえなかったのかを考え、真に政策立案に役立つような経済分析を発展させてくれるならば、これに過ぎる幸せはない。その中から、いつの日か世界の共有財産となりうる「日本の政治経済学」が誕生するのではないかと思うからである。

勿論、現在の経済状況の中でいかなる処方箋を提示するかも重要ですし、それらは過去の議論で繰り返し指摘されている点が多いのではないかとも思います。一歩引いて、上記の文章にあるような視点で考えてみるというのも必要でしょうか。

鈴木淑夫集 (現代エコノミスト選集―日本経済の50年)

鈴木淑夫集 (現代エコノミスト選集―日本経済の50年)