浜田宏一・堀内昭義編『論争 日本の経済危機』を読む。

失われた10年」に関する論考は様々な論者が様々な観点から議論しており、まさに百花繚乱の様相を呈している。このような状況から、様々な議論を整理した経済議論整理本ともいうべき書物も刊行されている。

 経済議論整理本は、てっとり早く問題点を知りたい読者にとっては便利な代物である。錯綜した議論を整理し、一つに纏め上げる本もあるが、纏め上げるという作業自体がその論者の主観が入り込んでしまう側面もあり、かといって単に議論を列挙・編集しただけでは読み物としては無味乾燥である。何より纏め上げるという作業の中で論者の持つ言葉の力といったようなものが失われてしまうような気がしてならない。

 

 『論争 日本の経済危機』(日本経済新聞社、2004年)は我が国を代表する著名な経済学者・エコノミスト13名が現代の日本経済の何が問題か、その処方箋は何かという点を?構造問題、?財政政策、?金融政策、?不良債権問題の4点に絞って議論している。

 以上の4つの点は経済学者・エコノミストで特に議論が分かれる点である。この本は4つの点について、異なる立場の論者の論文、それに対する反論を相互に掲載するという形式で纏められている。論者は?構造問題は宮川努vs野口旭、?財政政策は山家悠紀夫vs中里透・小西麻衣、?金融政策は岡田靖飯田泰之vs渡辺努、?不良債権問題は宮尾龍蔵vs堀雅博・木滝秀彰の各氏といずれも興味深い。

 各論点は対談ではなく論者の論文によって論点を明確にした上で、反論を相互に記載する形式である。読み手にとってはこの形の方がすっきりしていてかえってわかりやすいのではないか。特に?宮川努vs野口旭の両氏の論争は、反論に次ぐ反論で読み手にも熱気が伝わってくるようである。こうした実のある論争は論じ手の真摯な態度から生じたものであることは疑い得ない。

 さらに各論点について最後に浜田宏一、堀内昭義の両氏による総括コメント、そしてさらに各論者の総括コメントに対する反論で締めくくられ、最後まで議論につぐ議論を要求する稀有な本である。



 本書の評価だが、まさに『論争』の名にふさわしい良書だと思う。それは無味乾燥な議論の評価に基づくわけでなく論者の思考形式が直接読者に訴えかけること、さらに纏め役の浜田・堀内両氏がまとめ役ではなく議論の水先案内人としての役割に徹していることにある。



 ちなみに各論点についての私の評価だが、?については我が国の停滞は「構造問題」に原因があるのではなく、総需要不足によるものだとする点を理論・実証の両面で精緻に議論した野口氏に軍配があると思う。?財政政策は我が国の停滞が適切なタイミングで財政政策がなされなかったためとする山家氏、財政政策は逆効果であり財政赤字累増という構造問題を引き起こすものとする中里・小西氏ともにうなずく箇所はあるので痛み分けだろう。?金融政策はマネーサプライが成長に必要な適正水準を下回っていることを実証的に論証した岡田・飯田氏に軍配が、?不良債権問題は、不良債権こそが経済停滞の理由とする宮尾氏に対して、銀行機能の停滞は直接的にマクロ経済とは影響がないという点を実証的に示した堀・木滝氏の方が説得力があると感じられた。

 「説得」という作業は、経済を議論する人にとって必須かつ宿命的なものであると思う。不謹慎ながら鋭利な議論のもつ迫力、それがぶつかる面白さも同時に味わったような気がする。



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お粗末様でした(´з`)y-〜 ご興味があれば是非どうぞ。