読書感想文

中村宗悦「「高橋財政」に対する新聞論調−『東京朝日新聞』社説の分析−」を読む。

歴史科学協議会編集の『歴史評論』3月号の特集は、「1929年世界恐慌と日本社会」と題されている。井上財政の失敗と高橋財政の成功については、これを「歴史の教訓」として肯定的に捉える論調と、恐慌から戦争に至る過渡期として捉える論調の二つがあり得るだ…

橋本五郎『範は歴史にあり』を読む。

読売新聞特別編集委員を勤めていらっしゃる著者のコラムを一冊の本にまとめたものである。一つ一つが短いので空き時間に気楽に読めるが、中身は色々と考えさせることが多い。本書のあとがきに御母堂が著者に対して言われた三つのことが書いてある。曰く、第…

田中秀臣『偏差値40から良い会社に入る方法』を読む。

本書は、筆者が構想する「雇用三部作」のうちの二作目に位置づけられる本である。一作目はご存知『雇用大崩壊』であり、当ブログでも感想を書かせていただいた。本書のあとがきで述べられている通り、仮に政府が政策転換を行ったとしても、学生の就職という…

若田部昌澄「日銀券ルール」の誤謬」を読む。

久々に日銀ネタ。ドラエモンさんが去り、荒れてしまった某掲示板でも日銀券ルールについて親切に答えていた方が居たが、白川総裁がこのタイミングで「日銀券ルール」を持ち出したのは、量的緩和導入に反対していた当時の白川氏がこのような事態に対して用意…

西部邁「サンチョ・キホーテの旅」

西部氏の著作に『サンチョ・キホーテの眼』という本があることを知る方は今となっては中々のニシベ通ではないだろうか。学生の頃、政治や社会に関する見方の座標軸として何度も読み、シニカルかつアイロニーを漂わせ、時にはユーモアも感じさせる文体の持つ…

岩田規久男「金融危機の経済学」を読む(その2)

(その1)では、本書の中の一つ目の論点である、サブプライムローン問題の本質は何だったのかという点について敷衍した。(その2)では二つ目の論点である、サブプライムローン問題がなぜ世界金融危機を引き起こしたのか、そして三つ目の論点である各国の政…

松尾匡『「はだかの王様」の経済学』を読む。

現代は生きることに「辛さ」を感じる時代かもしれない。自らを苦境に貶めるために仕事をし日々の糧を得ているわけではないのに、結局仕事に埋没し家に帰るのは深夜。家族とはまともに話すこともままならずそのままボロ雑巾のように寝、会社では顧客の無理難…

上久保敏「下村治 「日本経済学」の実践者」(評伝 日本の経済思想)を読む。

本書は戦後日本を代表するエコノミストの一人である下村治についての評伝である。「日本経済」に真摯に立ち向かった下村が幾多の論争を経て自己の理論を彫築・熟成させ、さらには「日本経済学」と呼べる水準にまで到達した様を活写することに本書は成功して…

安冨歩「生きるための経済学 <選択の自由>からの脱却」を読む。

本書は現代の経済学が「ネクロフィリア・エコノミクス」(死に魅入られた経済学)であると規定した上で、「ネクロフィリア・エコノミクス」たる現代の経済学が「ビオフィリア・エコノミー」−ネクロ経済の論理を明らかにし、その破壊的側面を抑制し、ビオフィ…

竹森俊平「1997年−世界を変えた金融危機」を読む。

「世界経済の流れには節目となる年がある。近年でいえば1997年がそれだ。」との一節から始まる竹森教授の新著は、1997年に生じたアジア金融危機及び日本の金融危機の前後における世界経済の動きを分析した好著である。 我が国の金融危機、つまり北海道拓殖銀…

経済政策において既得権益と既得概念はどのように作用するのか(その2)

※宜しければ(その1)に引き続きご覧下さい。3.経済政策における「対立」の意味 (1)経済政策における「対立」の意味 「既得概念」(=認識モデル=観念)に基づく「既得権益」(=利害)が政策形成において影響力を持つという形で経済政策を捉えると、経…

経済政策において既得権益と既得概念はどのように作用するのか(その1)

「経済政策形成の研究」第一章では野口旭教授と浜田宏一教授が「経済政策における既得権益と既得概念」と題して論文を書かれている。本論文のポイントは題名にもあるとおり、経済政策において既得権益と既得概念がどのように作用しているのか、という点だろ…

「経済政策形成の研究」第6章〜第8章に関する暫定的感想

※書籍全体についての感想は全ての論説について取り上げてから纏めたいと思いますが、既エントリの部分に関連しての暫定的な感想です。いくつか言い足りない点はありますが、それは追々考えつつ機会を見つけて記載していきたいと存じます。当ブログのポリシー…

「経済学的発想」と「反経済学的発想」という枠組みがもたらすもの

野口(編)「経済政策形成の研究」第八章に所収されている松尾匡教授の論文「「経済学的発想」と「反経済学的発想」の政策論−マルクス経済学から」は、「経済学的発想」と「反経済学的発想」の相違をマルクス経済学の立場から描いたものである。勿論マルクス…

「現代マクロ経済学における共通理解」とは何か(その2)

※宜しければ(その1)も合わせて御覧頂ければ幸いです。3.インフレ期待は高めることができる。 (その1)で取り上げた「修正されたIS-LMモデル」で得られたインプリケーションは、以下の点であった。「期待要素をおりこんだ修正されたIS-LMモデル」の含意 …

「現代マクロ経済学における共通理解」とは何か(その1)

野口(編)「経済政策形成の研究」第七章所収の浅田統一郎教授*1による「デフレ不況と経済政策」は90年代後半以降のデフレと並行して生じた不況の原因と処方箋に関する、多くの経済学者によってほぼ合意されつつある共通理解について論じた論文である。 勿論…

デフレに対する有効な政策がなぜ受け入れられないのか

一昨日紹介した野口(編)「経済政策形成の研究」所収の第六章「平成デフレをめぐる政策論議 インサイダーの視点から」と題した論文は、イェール大学教授で経済企画庁経済研究所顧問、経済社会総合研究所所長を歴任された浜田教授による「政策現場のインサイ…

塩谷隆英「経済再生の条件−失敗から何を学ぶか−」を読む。

90年代以降の大停滞、つまり「失われた十数年」がなぜ生じたのかについては多数の著作が出されているが、本書の特徴は大きく以下の三点に集約されるだろう。以下、感想を交えつつ書いてみることにしたい。1.経済政策担当者からみた97年不況 まず本書の特徴は…

小野善康「不況のメカニズム」を読む。

バブル経済崩壊以降陥った「失われた十数年」の中で、完全雇用に基づく経済学(新古典派経済学)から導かれる処方箋である構造改革が多くの支持を得たという事実がある。 本書は以上の状況の中で、そもそも新古典派経済学は完全雇用の前提に立っているために…

城山三郎『花失せては面白からず』を読む−再掲−

以前書いたものですが、韓リフ先生にTB頂いたので再掲させていただきます。経済学愛?な皆様には本書に秘められた思いは・・分かりますよね(笑)。以下転載有名な本なので、一々感想を書くのは気が引けるのだが、やはり読んだ本の感想を書きたい(!)とい…

齋藤誠『成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学』を読む。(その1)

本書のはしがきにもあるとおり、マクロ経済政策をエッセー風に論考する著作としては『経済政策とマクロ経済学』、『先を見よ 今を生きよ 市場と政策の経済学』に引き続いて三作目*1となる齋藤先生の著作である。本書の第一章ではこれまで得たマクロ経済学の…

加藤涼『現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門』を読む。

マクロ経済学の領域において、初中級レベルのマクロ経済学(IS-LMモデルおよびAS-ADモデルの体系)と上級マクロ経済学(動学マクロ経済学)との乖離が激しいということはよく言われる点である。上級マクロ経済学というのは、大雑把に纏めてしまえば所謂ルー…

田中秀臣『経済政策を歴史に学ぶ』を読む。

本書は1990年代初めからの「失われた十数年」を経て一息ついた日本経済の今後を考える視座として、過去の経済思想、経済学の歴史といった過去の経済学が残した遺産を適用するという試みを行った本である。 本書の概略を先取りしてみると、格差社会および小泉…

沢木耕太郎『危機の宰相』と下村治

『危機の宰相』は、1960年という時代に対する沢木耕太郎氏の尽きない興味から生み出された著作である。同書のあとがきによれば、沢木氏は1960年という時代を、体制の側が提出した夢と現実を描く「所得倍増」の物語である『危機の宰相』、右翼と左翼が交錯す…

伊東光晴『現代に生きるケインズ−モラル・サイエンスとしての経済理論』を読む

本書は「一般理論」刊行から70年が経過した現在において、何が問われるべきかを論じた本である。言うまでもない事だが、著者は我が国のケインズ研究の第一人者であり、岩波新書としては40年前に「ケインズ−新しい経済学の誕生」を著している。また宮崎義一氏…

嶋中雄二『ゴールデン・サイクル−「いざなぎ超え」の先にあるもの』を読む

著名なエコノミストと呼ばれる人には何らかの特徴(技)があると思う。本書の著書の嶋中雄二氏の「技」が何かと問われれば、それは「景気循環に基づく日本経済の分析」ということになるだろう。言うまでもないが嶋中氏は「嶋中雄二の月例経済報告」をはじめ…

「エコノミストたちの歪んだ水晶玉」を読む。

後日日付を変えて投稿予定。

竹森俊平『世界デフレは三度来る(上)』を読む

本書は、過去生じた2度の世界経済の停滞期(1873年〜1896年、1929年〜1936年)、そして今般可能性を指摘されつつ幸いにも未遂に終わった三度目の経済停滞を中心に、1970年代の高インフレ期を織り交ぜつつ、19世紀後半から現代までの経済変動の中で財政、金…

司馬遼太郎『功名が辻』を読む。

今年から始まったNHKの大河ドラマは「功名が辻」。仲間由紀恵が良いとかそういうことは置いておいて、NHKの大河ドラマは毎年現代に即した一つのテーマを視聴者に感じさせるものではないかと思う。つまり、「義経」であれば源義経の姿から現代ヒーローをどう…

田中秀臣『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』を読む

2006年2月1日、バーナンキ氏がFRB議長に就任した。本書はバーナンキ氏の生い立ち等ではなく、その経済政策に関する考え方に焦点をあてつつ、ひいては現在日本に必要なマクロ経済政策とは何かを論じる本である。 まず本書にインパクトを与えるのはそのタイ…