Bernanke and Reinhart(2004)

Bernanke and Gertler(1999)に引き続き、某所での要約を少し編集したもの。誤りなどございましたらお知らせ頂ければ幸いです。宜しくお願いします。

Bernanke, B.S, and V.R. Reinhart, “Conducting Monetary Policy at Very Low Short-term Interest Rates,” American Economic Review, 94 (2), 2004, pp. 85-90.

1.分析内容
 本論文では、短期政策金利がゼロ近傍もしくはゼロである場合にいかに金融政策を行うかを議論している。具体的には、現在の政策金利の水準を変化させずに経済を刺激する代替的な金融政策についてであり。
 代替的な金融政策とは、i)投資家が将来の短期金利は現時点よりも低い水準になるとの期待を持たせる政策、ii)中央銀行のバランスシートの構成を変化させることで安全資産の供給を変化させる政策、さらにiii)中央銀行のバランスシートの規模を拡大させることで短期金利の水準をゼロに留める政策(量的緩和)である。
 最後に、金利が低水準にある場合のマクロ経済上のコストとベネフィット、つまり中央銀行は代替的な金融政策を行う前に政策金利をゼロにすべきなのかという点について議論している。

2.帰結とインプリケーション
(1)名目金利の期待形成

 長期の資産価格は期待短期金利と現在の短期金利の水準に依存する。そのため、中央銀行は将来の短期金利に関する市場参加者の期待に影響を与えることで、金融市場や経済活動に影響を及ぼそうと考えている。
 Woodford(2003)、Svensson(2001)、Eggertson and Woodford(2003)といった研究では、オーバーナイト物の短期名目金利がゼロであったとしても、十分に長期にわたって短期金利を低水準に留めるというコミットメントを通じて中央銀行は市場に刺激を与えることが可能であると論じている。
 実際、中央銀行は将来の政策に関する市場の期待に影響を与えることの重要性を認識しており、市場との対話と政策意図の浸透を高める努力を行うことで政策の効果を高めることを意図している。勿論、コミットメントはそれらが信用される限りにおいて将来の期待に影響を与える。

(2)中央銀行のバランスシートの構成変化
 中央銀行は様々な資産を保有しており、バランスシートの資産構成は金融政策のもう一つの潜在的な手段である。最も極端な例は、ターゲットとなる資産をアナウンスした価格で無制限に買い取ることである。明らかなことであるが、このような資産構成の変化は将来の政策金利に関する市場の期待に影響を及ぼす。

(3)中央銀行のバランスシートの規模変化
 バランスシートの構成変化に加えて、バランスシートの規模を拡大させることで中央銀行は政策を変化させることができる。金利がゼロ近傍にある場合においても量的緩和は経済を刺激することが可能との事実はある。例えば、Christina Romerは米国の大恐慌時において金融緩和は効果があったと議論している。
 量的緩和策は幾つもの経路を通じて経済に影響を及ぼす。一つの経路は、貨幣が他の金融資産と不完全代替にあるという信認を前提としている。もしこの信認が担保される限り、大規模な貨幣供給は投資家の資産構成の変化をもたらし、非貨幣資産の価格を引き上げ、収益率を下げるという効果をもたらす。長期資産の収益率低下は経済活動を活発化させる。金融政策がポートフォリオリバランス効果をもたらす可能性については、ケインジアンマネタリストとの間で議論がなされてきたが、この効果の重要性については結論が出ていない。
 量的緩和策は、将来の政策金利の経路に関する期待を変化させることで効果をもたらす。例として、中央銀行が高水準の準備預金通貨を維持し、ある経済状態が達成されるまで短期金利をゼロにすることにコミットすることを考える。これは理論的にはa)で議論した点と同様であるが、準備預金通貨を高水準に保つことは将来の短期金利についての信認と比較してより分かりやすい政策である。また準備預金通貨をコントロールすることによってゼロ金利にコミットすることは期待経路以外での量的緩和策の効果を達成することになる。
 最後に量的緩和は財政政策の効力を高める効果をもたらす。市場参加者が将来の正の短期金利を期待する限りにおいて、政府債務は現在もしくは将来の増税を意味する。公開市場操作によるバランスシートの拡大は、中央銀行が市中にある金利負担付の政府債務を金利負担無しの通貨で置き換えることを意味している。日本は2002年から2004年にかけてマネタリーベースが名目GDPの3割まで拡大した。近年デフレの影響は弱まったが、金融政策がデフレの改善にどの程度貢献したのかを把握することは難しい。米国の経験は1979年から82年の時期に限られるが、その際、連銀は銀行非借入準備をターゲットとした。米国の経験は準備金への需要は不確実であり、量的緩和策の効果を明確に把握することは困難であるということである。

(4)低金利政策のコスト
 適切な金融政策は金利を低水準に留める際に見込まれるコストと経済に与えるベネフィットとを比較して判断されるべきものである。このコストを考えるにあたってはフリードマンによる古典的な最適通貨供給に関する論文のメッセージを考慮すべきである。フリードマンはオーバーナイト金利がゼロであることが最適な場合とは、流動性機会費用がゼロとなることで資源の無駄な使用が抑えられる場合であると説いた。この視点に即して考えれば、金利を低水準に抑えることのコストは大部分が調整コストであり、限定的なものと考えられる。