ホール/ファーグソン(宮川重義訳)『大恐慌』

 極めて不謹慎な言い方なのかもしれないが、現代ほど「マクロ経済学」を学び、「なぜ」を突き詰めていくビックチャンスは無いのかもしれない。
 特に我が国の場合は、長期停滞への片道切符(現状では)の第一ステージとしての「失われた10年」、そして第二ステージとしての世界的な不況が覆う現在と見ていけば、なぜ現在このような事態になり、その過程でどのような政策が行われ、何が経済停滞への特効薬であり、特効薬を迅速かつ効果的に発動させるような政策の枠組み・システムとは何か、頻発するバブルとその崩壊の経験から何を学ぶべきか、バブルは資本主義の必要悪かはたまた嫌悪すべきものか、バブルを飼いならすことが可能だとしたらそれはどんな方法か、等々疑問が尽きない。
 我が国の経済成長を歴史的視点から眺めれば、80年代を生み出した温床としての70年代は何だったのか、なぜ70年代の成長率は屈折し、さらに90年代屈折したのか、昨今生じた原材料価格高騰と70年代のスタグフレーションの違い、経済のみならず世間の気分が経済政策の形成にどのような影響を与えたのか・・・知りたいことが山積みで暗澹たる気分にもなってしまう。そしてこのような疑問の源泉はまさに現在生じている出来事の動きにこそあるわけである。
 閑話休題大恐慌に関する著作はいくつかあるが、ホール/ファーグソンによる『大恐慌』の特徴は、大恐慌が世界を襲った1930年代に対していくつかの疑問を提示した上で、大恐慌の過程を追いながらその疑問に応えていくというところにある。本書における答えを書くことは容易だが、現代に通じるのはなぜその答えに到達したかという本書そのものの分析過程と叙述だろう。個人的には本書で書かれている答えに同意しない部分もある。ということで提示されている疑問のみを書く。

1.1920年代に生じた諸要因が大恐慌の舞台を設定したのだろうか
2.1929−33年の不況はなぜあれほど厳しかったのか
3.大恐慌はなぜあれほど長く続いたのだろうか
4.なぜ、それは世界中に拡大したのであろうか
5.1930年代半ばに米国経済は、なぜインフレの加速を伴うことなく成長することができなかったのか
6.1930年代に準備−預金比率及び通貨−預金比率は、なぜあれほど急激に上昇したのか
7.大恐慌を終息させたのは何であろうか

 さて、このように本書で提示されている疑問の多くは現在の世界的な不況局面においても該当する。読みながら今と当時を考えるという読み方ができるのが本書の魅力だろうか。

大恐慌―経済政策の誤りが引き起こした世界的な災厄

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