Reinhart and Rogoff, This Time Is Different

 既に各所で紹介されている模様ですが、ラインハートとロゴフによる「This Time Is Different」をやっと購入しました。この本は副題にもあるとおり、過去800年(西暦1200年!)間の歴史の中で生じた金融危機の経験を数量的に類型化し、特徴を掴みながら実証的に分析を行っているという本です。
 勿論、危機の種類に応じて対象とする年次は異なります。データとして分析されているのは、大体1800年代以降が多い模様。本書の元となった論文はご存知のとおり、以下の二つです。キンドルバーガーの『熱狂、恐慌、崩壊』はクロニクルな整理・分析がなされているわけですが、金融危機について多少なりとも知識が無いと少々読みづらいのではとも感じます。個人的には数量的な側面から分析した本書の方が好みですね。

http://www.nber.org/papers/w13761 (この内容は本書の13章に収録の模様)
http://www.nber.org/papers/w13882 (この内容は本書の5,6,7章あたり?に収録の模様)

※ドラフトバージョンですと以下のリンクから読めます。もしご購入を検討の向きは、こちらを一読の上、判断されても良いのではとも思います。(ただし、本ではドラフト中のデータはアップデートされており、印象は結構違う(汗。)
http://www.economics.harvard.edu/files/faculty/51_Is_The_US_Subprime_Crisis_So_Different.pdf
http://www.economics.harvard.edu/files/faculty/51_This_Time_Is_Different.pdf

 金融危機として対象としているのは、a)債務超過に伴うインフレ(年率20%以上、40%以上のものについては別に分析)、b)通貨危機基軸通貨に対する15%以上の減価)、c)通貨単位の変更を伴うもの(金本位制であれば金含有量の5%以上の減少を伴うもの、及びジンバブエ危機)、d)銀行危機(取り付け及び一時閉鎖・国有化等を伴うもの)、e)対外・対内債務の破綻の5つです。これらについて章を設けながら分析が進められていきます。
 第1章〜第3章が分析対象とする金融危機の内容と類型化、そして鍵概念、データベースについての説明、第4章から6章が対外債務の破綻による金融危機の分析、第7章から9章が対内債務(こういう言い方が良いのかわかりませんが)の破綻に関するもの、そして債務破綻に関する分析のまとめ、第10章から12章が銀行危機及び通貨危機についての分析といったところです。第13章から16章がサブプライム危機から世界金融危機についての分析ですが、ここに1章から12章までの知見が生きてくるわけですね。17章が危機からの教訓についてふれられます。
 本書が強調するのは、ブームの際に皆が感じ、かつブームを自己実現化させる「THIS TIME IS DIFFERENT(今回は違う)」という考え方は誤りだという点です。つまり、言いたいのは「TIME IS NOT DIFFERENT(今回も同じ)」ということです。今回の世界金融危機を増幅させた複雑な証券化というスキームやレバレッジといった要素が無かったとしても恐らく危機は生じただろうと彼等は論じますが、それはその通りでしょう。
 経済の好ましい環境が続くことでバブルが生まれ、そして「THIS TIME IS DIFFERENT(今回は違う)」という観念が人々を更なるバブルへと突き動かす。だが、この自己実現的な好循環過程はいつか終わるわけです。「TIME IS NOT DIFFERENT(今回も同じ)」なのだとしたら、何が生じるのか。何を教訓とすべきなのか。このあたりは本書を読んでのお楽しみといったところでしょうか。多分邦訳が出されると思うのですが、その前に一通り読む予定です。

This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly

This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly